サイクリング中に性器の痛みや痺れを経験する女性サイクリストは、性機能障害を報告する可能性が高くなります。特にクリトリスがしびれる女性はオーガズムの満足度が低いことが示されました。最適なサドルと自転車に乗ることが女性の性生活にとって極めて重要であると言えます。

概要
アメリカ、スタンフォード大学医学部泌尿器科の大学院生(当時)であったダニエル・グリーンバーグ氏(Dr. Daniel Greenberg、Figure 1)らの研究グループが、2019年(令和元年)に発表した研究によると、サイクリング開始後1時間以内に性器の痛みが現れる女性やクリトリスがしびれる女性は、性的興奮の低下やオーガズムの満足度の低下など女性性機能障害(FSD: Female Sexual Dysfunction)を発症する可能性が高くなることが分かりました。
つまり、自転車のサドルで股間に痛みがあるかクリトリスがしびれる女性はそのまま放置すると性的に感じにくくなるおそれがあるので、自転車とサドルの調整をするべきだということです。

この研究は2019年9月に「The Journal of Sexual Medicine」誌に掲載されました。

Genital Pain and Numbness and Female Sexual Dysfunction in Adult Bicyclists(成人自転車利用者の性器の痛みとしびれおよび女性の性機能障害)
https://academic.oup.com/jsm/article-abstract/16/9/1381/6966702
https://escholarship.org/content/qt9h32f91k/qt9h32f91k.pdf
Daniel R. Greenberg, Yash S. Khandwala, Benjamin N. Breyer, Roger Minkow, Michael L. Eisenberg. The Journal of Sexual Medicine, Volume 16, Issue 9, September 2019, Pages 1381–1389
研究の要旨
FSFIについて
自転車に乗ることは、多くの健康効果をもたらすスポーツですが、特に女性は長時間サドルに座ることによって、サドルが陰部神経を圧迫または挟み込み、損傷を引き起こし、性的興奮やクリトリス(陰核、Clitoris)の勃起が阻害され、女性器の感覚が低下する可能性があります。
女性性機能障害(FSD)は、非常に多くみられる症状であり、人間関係や性生活に関する不安を引き起こす可能性があります。FSDを評価するために女性性機能指数FSFI(Female Sexual Function Index)を用いる方法があります。FSFI合計スコアが26.55未満の場合にFSDと診断されます。
FSFIは、女性の性機能全般を評価するための検証済みのツールであり、FSDの特定において高い信頼性、妥当性、感度、特異度を有することが証明されています。
調査方法
18歳以上の女性サイクリストを対象に、匿名調査への回答を募りました。オンライン、ウェブサイト、サイクリング雑誌、ポッドキャスト、ソーシャルメディアなどを通じて参加者を募りました。
合計335人の女性サイクリストが本研究に参加し、178人(58.1%)がオンライン調査とFSFI質問票に回答しました。そのうち3分の2が40歳以上で、平均年齢は48.1±0.8歳、98.1%がサイクリング時にロードバイクを使用していました。平均的な自転車運転経験は17.1±0.9年で、30%以上のライダーが20年以上の経験を有していました。
FSFIの質問票を用いた調査のほかに、サイクリング中の痛みと性器のしびれに関する研究参加者の経験を評価するために、サイクリング中に性器のしびれや性器の痛みを経験したかどうか、頻度、部位、重症度、発症時期、および解消までの時間を尋ねられました。

調査結果
サイクリング特性とFSDへの影響
全調査参加者のFSFI合計スコアの平均は22.0±0.81で、半数以上(53.9%)がFSDの診断基準(FSFI合計スコア<26.55)を満たしました。つまり、半数以上が女性性機能障害の可能性が高いと診断されました。
しかし、人口統計情報、サイクリング特性(週あたりの平均サイクリング時間など)、自転車の改造、または保護具と女性性機能障害との間に相関は見られませんでした。

性器のしびれと性器の痛みの特徴とFSDへの影響
女性サイクリストの58.2%がしびれを報告し、69.1%が痛みを報告しました。しびれと痛みを経験した部位は同様のパターンを示し、最も多く報告されたのは外陰部で、次いでクリトリス、臀部、会陰でした。
多変量解析の結果、しびれの頻度と部位がFSD発症のリスクに最も大きな影響を与えることが示されました。サイクリング中に性器のしびれと性器の痛みを半分以上経験したサイクリストは、FSDを報告する可能性が高く、クリトリスのしびれを経験した女性もFSDを報告する可能性が高くなることが分かりました。
走行開始から1~5時間以内に痛みを経験したサイクリストはFSDを報告する可能性が高く、走行開始から1時間以内に痛みを経験したサイクリストはFSDを報告する可能性がさらに高くなることが分かりました。
- 性器のしびれと痛みの頻度は、FSDの可能性を高める
- 特にしびれがクリトリスに限局している場合はその傾向が顕著である
- 性器の痛みの早さは、FSDの可能性を高める

女性器のしびれと痛みの影響
しびれの頻度は、FSFIのオーガズム(性的絶頂、Orgasm)のスコアと強く関連していました。しびれを半分以上経験したサイクリストは、しびれを全く経験しなかったサイクリストと比較して、FSFIのオーガズム領域スコアが有意に低く、この傾向は性的興奮と満足度の両方に認められました。
痛みの頻度の増加は、FSFIの性的興奮とオーガズム領域のスコアの低下と関連していました。また、痛みを全く経験したことのないサイクリストと、性器の痛みを半分以上経験したサイクリストとを比較した場合、潤滑のスコアの低下と関連していました。痛みの発症時期の早さ(自転車に乗った後、痛みを感じるまでの時間)は、FSFIの潤滑、満足度、痛みのスコアの低下と関連していた。
- 性器のしびれは、性交中の性的興奮、オーガズム、満足度の低下と関連がある。
- 性器の痛みの頻度は、性的興奮、オーガズム、性器の潤滑の低下と関連がある。
- 性器の痛みの早さは、性器の潤滑、満足度の低下と関連がある。

自転車に乗る頻度、時間との関係
週あたりの平均サイクリング距離、週あたりの平均乗車時間、乗車経験年数、および月あたりの長距離走行(3時間)回数は、いずれのFSFI領域とも有意な相関関係は認められませんでした。つまり、性機能障害は、自転車走行の距離、時間、年数などと無関係に起こることが分かりました。
頻度、時間との相関が無いということは「長期的な圧迫が原因ではない」ということです。つまり、乗り方(Riding Position)が悪ければ、長時間乗らなくても性機能障害が発生するということです。1時間以内に症状が出る場合は乗り方が悪いので、自転車に乗る姿勢を改善し、サドルを変えることを強くお勧めします。

補足
以下、当サイトによる補足です。
サイクリングがFSDの原因になるわけではない
この研究では、自転車に乗る時間や年数は女性性機能障害(FSD)に関係がないことが示されています。サイクリングが直接FSDの原因になるわけではありません。この研究論文では「サドル」の改善を強調しています。
トーマス・W・ゲイザー氏(Thomas W. Gaither、現・カリフォルニア大学ロサンゼルス校泌尿器科医)らの研究グループによると、少なくとも2年のサイクリング経験、週3回以上のサイクリング、1日平均25マイルを超えるサイクリングをする高強度サイクリストは、非サイクリストに比べてFSDを報告する可能性が低い(=サイクリストのほうが性感が強い)ことを発見しました。
つまり、正しいサドルを選択し、正しくフィッティングをした自転車に乗れば、どれだけ自転車に乗ってもFSDにつながることは無いのです(Figure 2)。女性器のしびれや痛みを感じるのは、サドルや自転車が合っていないからであり、しびれや痛みがあるのにそれを放置した場合にはFSDになる可能性があります。

しびれの頻度とFSD
この研究では、女性器のしびれの頻度の増加、およびクリトリスに限局したしびれは、FSDの報告確率を高めることが分かりました(ただし、しびれが治るまでの時間とFSDのリスクには関連がない)。さらに、しびれの頻度は、性的興奮、オーガズム、および性交満足度の低下と最も強く関連していることも分かりました。
FSDが、女性器のしびれの「発生頻度」に依存するということは、血流の遮断や神経の圧迫の「繰り返し」によって性器の感覚を低下させ、FSDの発症リスクを高める可能性を示唆しています。

痛みとFSDの予測
女性器の痛みに関しては、サイクリング中に女性器の痛みを半分以上経験する人、および痛みの発現までの時間が短い人は、FSDの発生を最も予測しやすく、さらに、覚醒度、オーガズム、および性器の潤滑の低下と強く関連していました。
女性器の痛みの発現までの時間が短いことは、性交痛(勃起したペニスが膣に挿入されるときの膣口付近の痛み)と関連していました。
サイクリング開始後すぐに性器の痛みが現れる女性は、高い確率でFSDになることが予想されるので、直ちにサドルや自転車を見直したほうが良いです。

女性器のしびれは性機能障害の前兆である
カリフォルニア大学ハンセン・ルイ医学博士(Dr Hansen Lui)らの研究グループによる2021年の大規模調査によると、性器のしびれのある参加者の平均FSFIスコアは24.9であったのに対し、しびれのない参加者の平均FSFIは26.0で、性器のしびれがある人はしびれのない人に比べてFSDのリスクがわずかに高く、性的な反応の平均が低く、特に興奮度と潤滑度が悪かったことが分かりました。
しかし、年齢、サイクリング時間、頻度、距離、速度、路面状況は性器のしびれと有意な関連が見られませんでした。
この研究結果は、Greenbergらの研究結果と併せて、女性サイクリストが性器のしびれやFSDを示唆する症状を報告するリスクが高く、性器のしびれはFSD症状発現の予測指標である可能性があることを強く示唆しています。
Association of Bicycle-Related Genital Numbness and Female Sexual Dysfunction: Results From a Large, Multinational, Cross-Sectional Study(自転車関連の性器のしびれと女性の性機能障害との関連性:大規模多国籍横断研究の結果)
https://academic.oup.com/smoa/article/9/3/100365/6956867
Hansen Lui, Nnenaya Mmonu, Mohannad A. Awad, Nikan K. Namiri, Micha Y. Zheng, Gregory M. Amend, Michael L. Eisenberg, Benjamin N. Breyer. Sexual Medicine, Volume 9, Issue 3, June 2021, Page 100365





