大規模な多国籍の横断研究によると、女性サイクリストは一般的な婦人科系や生殖泌尿器系の症状を経験することがあっても、深刻な排尿障害や性機能障害にはかかりにくいとのことです。マンコの疾患を適切に予防すれば、サイクリングは女性の性的健康を改善する可能性があります。

概要
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の当時医学生(UCSF medical student)であったトーマス・W・ゲイザー氏(Thomas W. Gaither、現・カリフォルニア大学ロサンゼルス校泌尿器科医、Figure 1)らの研究グループは、2018年(平成30年)に、アメリカを含む5か国の女性アスリートのデータを分析し、サイクリングが女性の排尿機能や性機能に悪影響を及ぼすかについて調査しました。

分析の結果、従来の仮説に反し、女性の泌尿⽣殖器疾患を適切に予防すれば、サイクリングは女性の性的健康を改善する可能性があることが分かりました。この研究は2018年3月13日に「The Journal of Sexual Medicine」誌に掲載されました。

Cycling and Female Sexual and Urinary Function: Results From a Large, Multinational, Cross-Sectional Study(サイクリングと女性の性機能および排尿機能:大規模多国籍横断研究の結果)
https://academic.oup.com/jsm/article-abstract/15/4/510/6980330
https://escholarship.org/content/qt5r79k6g3/qt5r79k6g3.pdf
Thomas W. Gaither, Mohannad A. Awad, Gregory P. Murphy, Ian Metzler, Thomas Sanford, Michael L. Eisenberg, Siobhan Sutcliffe, E. Charles Osterberg, Benjamin N. Breyer. The Journal of Sexual Medicine, Volume 15, Issue 4, April 2018, Pages 510–518
この研究について、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の上級広報担当者エリザベス・フェルナンデス氏(Elizabeth Fernandez)は、女性バイカーの中には非サイクリストよりもセックスが上手な人もいる(Some Female Bikers May Have Better Sex than Non-Cyclists)と述べています。
Women Cyclists Prone to Common Gynecologic Issues But Not Serious Urinary Dysfunction(女性サイクリストは一般的な婦人科疾患にかかりやすいが、深刻な排尿障害にはかかりにくい)The University of California
https://www.ucsf.edu/news/2018/03/410021/women-cyclists-prone-common-gynecologic-issues-not-serious-urinary-dysfunction

研究の要旨
サドルの不快感の影響について
自転車を利用するサイクリストは男女にかかわらず、尿路感染症、性器のしびれ、サドルの痛みなどの症状を経験する確率が高いことが知られています(このことは、この研究でも否定していない)。そのため、女性のサイクリングと排尿障害、性機能障害との間に関連性があるものと推測されてきました。
そこで、女性サイクリストの経験するサドルの不快感や症状が、本当に排尿機能や性機能に深刻な影響をもたらし、性的な健康を害するのかについて、多国籍の大規模なアンケート調査が実施されました。
調査方法
アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏のスポーツクラブを通じて、サイクリスト、水泳選手、ランナーを対象に匿名アンケートを実施しました。水泳選手とランナーは比較対象として登録されました。
この研究では、高強度サイクリスト(High-intensity cyclists)は、2年以上サイクリングを続け、1⽇平均25マイル(約40km)以上で週3回以上(週120km)走行している女性と定義されました。⾮サイクリストとは、泳いだり⾛ったりはするが、定期的にサイクリングはしない女性と定義されました。
回答者の中から抽選で100ドルのギフトカードが送られました。合計5,853人の⼥性がこの研究に参加し、3,118人の女性がアンケートに回答しました。34%は自転車に乗っていない人、53%は低強度の自転車に乗っている人、13%は高強度の自転車に乗っている人でした。
女性性機能指数(FSFI)に加え、米国泌尿器症状指数(AUA-SI)の質問票にも回答しました。

調査結果
女子サイクリストはモテる
一般的に、サイクリストは⾮サイクリストよりも年齢が高く、結婚経験がある割合が高いことが分かりました。サイクリストは安定した性的パートナーを有している割合が多く、モテるようです。
- ⾃転⾞に乗らない人:既婚29%、パートナーあり12%、彼氏無し55%
- 低強度サイクリスト:既婚36%、パートナーあり19%、彼氏無し35%
- 高強度サイクリスト:既婚43%、パートナーあり1%、彼氏無し28%
※パートナーあり(Partnered):既婚ではないが、配偶者に準じるような長期的なパートナー(安定した恋人、同棲相手、事実婚、内縁関係など) がいる状態を指します。
女子サイクリストは性的に活発である
このアンケートはスポーツクラブを通じて依頼されたので、回答者の多くは何らかの運動を積極的に行っており、アンケートに回答した女性の大多数は性的に活発であると回答しました(2,524人、約81%)。運動の好きな女子は昼夜を問わず身体活動が活発と言えます。
そのなかでも、低強度および高強度サイクリンググループ(それぞれ84%、86%)では、⾮サイクリンググループ(74%)よりも性的に活発な回答者が多く、自転車女子はより積極的であることが分かりました。
性器のしびれとサドルの痛み
回答者の平均FSFIスコアとAUA‑SIスコアはそれぞれ22.1、7.2でした。回答者の半数以上が尿路感染症の既往歴(51.4%)を報告し、性機能障害の基準を満たしていました(57.0%)。性器のしびれ(39%)とサドルの痛み(39%)がよく報告されていました。
低強度サイクリストと高強度サイクリストは、⾮サイクリストと比較して、過去のUTI、性器のしびれ、サドルの痛みを報告する割合が高く、女子サイクリストは、尿路感染症、性器のしびれ、サドルの痛みなど、その他の泌尿⽣殖器の症状を経験する傾向があることが分かりました。
サイクリストの81%が、陰唇や膣のしびれを感じたと回答し、次いで臀部(16%)、会陰(10%)と続きました。しびれの持続時間は、1分未満が13%、1〜59分が71%、1〜24時間が14%、24時間以上が2%で、大多数の女性が1時間以内にしびれが解消していました。
女子サイクリストは性機能が優れている
高強度サイクリストは、⾮サイクリストと比較して、過去の性器のしびれ、サドルの痛みの症状を経験する確率が高いにもかかわらず、不思議なことに、女性性機能指数(FSFI)のスコアが統計的に有意に高く、性機能障害を報告する割合が少なかったのです。つまり、高強度で運動する⼥性サイクリストは⾮サイクリストよりも性機能が優れていることを⽰唆されました。
生涯の走行距離(Lifetime Miles)が長くなると性機能が向上することが分かりました(Figure 3)。パッドを付けたことがないと報告したサイクリストがショーツを着用すると、性器のしびれやサドルの痛みが発⽣する確率が低くなることも分かりました。
一般に、しびれは性器機能の低下と関連していることが知られています。しかし、自転車女子の多くが自己申告する症状は「既往歴として過去に不快感を経験したことがある」という意味であって、一度不快感を経験するとそれを避けようと考えます。サイクリング歴が長くなると性器のしびれ、サドルの痛みを避けるために、サドルの種類を変更したり、股間を守るパッドやショーツ(サイクルパンツと呼ばれる)等を装着するなどして工夫しようとするため、重篤な性機能障害には至らないのです。
逆に、女子サイクリストは⾃転⾞に乗っていない人よりも性的に活発であり、性器のしびれやサドルの痛みを適切に防ぐことができれば、全身の血流が改善されることで性機能が改善されます。

排尿機能に悪影響を与えない
排尿機能の低下と性機能の低下は有意に関連があり、排尿機能の症状が重い女性(AUA‑SIスコアが高い)ほど性機能障害になりやすい(FSFIスコアが低い)ことが⽰されました。
女子サイクリストは全体として過去の既往歴として尿路感染症を報告する割合が高かったものの、それは性機能と同じく、女性器(泌尿器)のケアが不十分であることが原因と分かりました。⼥性の尿道⻑は短いため、接触面積の増加と会陰部の通気性の低下が感染の温床となる可能性がありますが、適切にケアをしていれば、サイクリングの⻑距離⾛⾏が排尿機能に悪影響を及ぼすことはないとのことです。
補足
以下、当サイトによる補足です。
比較対象
サイクリストのサドルの影響を調べる方法として、サイクリストと非サイクリストを比較する調査方法があります。
調査対象が強度のサイクリストの場合、陸上選手(ランナー)や競泳選手(スイマー)などマンコの圧迫がないと思われる競技の女子アスリートと比較することによって、女子アスリート全般に共通する症状なのか、サドルの影響による症状かを判別することができます。
例えば、アメリカのアルバート・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine、当時)の骨盤内科医マーシャ・K・ゲス医学博士(Dr. Marsha K. Guess、Figure 4)らの研究グループは2006年に、1週間当たり16km(10マイル)、1か月に64km以上自転車に乗る18歳以上の女性自転車競技者48名と、女性ランナー22名を比較した研究結果を発表しました。
この研究においても、競技女子サイクリストはサドルの慢性的な圧迫により性的感覚が低下し、女性器に陰部神経の損傷を示す神経症状があるものの、女子ランナーより性的パートナーがいる割合が高く、性機能および⽣活の質への悪影響は無かったということです。

Genital sensation and sexual function in women bicyclists and runners: are your feet safer than your seat?(⼥性の⾃転⾞およびランナーにおける性器の感覚と性機能: ⾜はサドルより安全か?)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17100935/
Guess MK, Connell K, Schrader S, Reutman S, Wang A, LaCombe J, Toennis C, Lowe B, Melman A, Mikhail M. J Sex Med. 2006 Nov;3(6):1018-1027.
性的に活発とは
英語で性的に活発(sexually active)とは、簡単に言うと、現在または最近、性的な活動(セックスやそれに準じる行為)を行っている状態を指します。病院の問診票で「Are you sexually active?」と聞かれると、最近、性行為をしているかという意味です。性欲が強い、遊びが激しいという意味ではなく、性行為またはそれに準じる行為を日々行っていることを表します。
自転車(ロードバイクやサイクリング)を趣味にしている女子は、健康志向で体力もあるため、性的に活発であり、性欲や性生活の満足度が高いと言えます。

予防を万全にした結果である
女性のサイクリングによる健康効果は数多く、心機能の改善や肥満率の低下などが挙げられます。しかし、女子サイクリストの多くは性器のしびれ、サドルの痛み、尿路感染症など泌尿⽣殖器系疾患の症状を経験しています。
この研究は、他の研究報告とは異なり、⼥性サイクリストは⾮サイクリストと比べて性機能や排尿機能が劣っていなかったことを示しました。むしろ、性機能についてはサイクリングをしたほうが向上するようです。
最近は、女子選手のサイクリスト症候群、サイクリスト結節などの重篤な女性器障害が報告されていますが、それは外陰部の異常を軽視して放置してしまった結果であって、多くのサイクリストは重篤な症状に至るまでに何らかの予防策を講じようとしているのです。
サイクリングが重篤な性機能や排尿機能の障害につながらないことは示されましたが、セックスが大好きな女子サイクリストたちにとってサドル痛、性交痛、排尿困難が負担となることは間違いなく、予防を万全にしなければならないことは言うまでもありません。






