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画像で学ぶクリトリス、女性のための医学的・解剖学的解説 Clitoris Clinic【陰核の医学】

クリトリス[くりとりす]は女性の性生活だけでなく、スポーツ外傷のリスクとしても学ぶべき重要な器官です。しかし、残念ながら我が国の性教育ではクリトリスについて教わることは全くありません。最近、クリトリスの解剖学的構造が解明されつつあります。クリトリスの複雑な構造を理解することが、女子アスリートのスポーツ外傷を理解するための第一歩と言えます。

クリトリスの外見

女性であればクリトリスの外見は知っているはずです。自分のクリトリスの外見が正常かどうかは他人のクリトリスの写真をたくさん見れば分かります。クリトリスは複雑な構造をしており、その大きさ、形、色、感度は人によって異なります。

まんこの割れ目の中にある

女性のクリトリスClitoris)とは、日本語では「陰核(いんかく)」とも呼ばれる、女性の外陰部にある小さな突起のことです(Figure 1)。

Figure 1 : 女性のクリトリス(陰核)は外陰部の中で比較的前側にある。男性で言えば陰嚢(睾丸の袋)の後ろの付け根の位置に相当する。

クリトリスは男性には存在しませんが、発生学的には男性の陰茎(ペニス、Penis或いはTinko)と相同の器官とされています。

しかし、男性のペニスとは異なり、左右にある大陰唇Labia majora)の間に隠れているため、脚を閉じているときは通常、陰裂(まんこの割れ目、Pudendal cleft)の中に収納されています(Figure 2)。陰毛が生えている場合は陰毛によって陰裂やクリトリスが見えないことがあります。

Figure 2 : 女性の陰裂(Pudendal cleft)の立位時の位置と、脚を閉じているときの拡大図。陰裂を開くことなくクリトリスを直接視認するのは困難である。

なお、思春期以降には陰裂から少し露出して見えることがあります。クリトリスは、女性によって大きさや外見が異なり、ばらつきがあります。脚を閉じたときに陰裂のなかに隠れている女性もいれば、露出して目立って見える女性もいます(Figure 3)。

Figure 3 : 成長に伴い女性器の位置や大きさが変化するため、脚を閉じてもクリトリスや小陰唇が露出することがある。解剖学上は正常である。

クリトリスが陰裂の中に隠れている女性の場合、尿道口も隠れているため、排尿時に尿流が安定しません。排尿の際には陰裂をしっかり開くことが必要となります。

狭義のクリトリス

脚をM字に開脚することにより、陰裂も開かれます。開かない場合は、指を使って大陰唇を優しく広げます。このとき小陰唇Labia minora)の上端に余分な皮膚で覆われた滑らかな皮膚の突起が見えるはずです。陰毛を剃るとさらによく見えます。上には恥丘、下には尿道があります(Figure 4)。

Figure 4 : 女性が開脚時に陰裂の比較的前寄りに包皮に覆われた状態のクリトリス(B)の存在を認める。Vulva of a 27 year old Asian female、(A)恥丘Mons Pubis (B)クリトリスClitoris (C)小陰唇Labia minora (D)大陰唇Labia majora (E)膣口Vaginal Opening

大陰唇を開いたときに見える余分な皮膚が陰核包皮Clitoral Hood)で、そのなかにある突起が陰核亀頭(きとう、Clitoral Glans)です。

陰核亀頭は、陰核包皮と呼ばれる皮膚のひだによって部分的に、あるいは完全に覆われていますので、性的興奮を感じていないときに陰核亀頭が露出していないこともあります(皮を上に引っ張れば露出する)。

通常は、体外に露出して見える陰核亀頭と陰核包皮の部分だけをクリトリス(陰核)と呼ぶことが多いです(狭義のクリトリス、Figure 5)。

Figure 5 : 外見上見える部分だけをクリトリス(狭義のクリトリス)と呼ぶことがある。(1)陰核包皮Clitoral hood (2)陰核亀頭Clitoral Glans

亀頭と包皮の間には恥垢が溜まりやすく、不潔にしておくと炎症を起こすことがあります。また、女性は包皮が亀頭に張り付く「クリトリス癒着」を起こしやすく、癒着が起こると刺激や痛みの原因となるほか、性的快感の減少にもつながります。

陰核亀頭のサイズ

陰核亀頭のサイズは年齢差・個人差・人種差もありますが、成人女性で幅3~4mm、長さ4mm~5mm程度であり、個人差が大きく2mm~10mmの範囲でばらつきがあります。出産経験のある女性はクリトリスが著しく大きくなる傾向があります。中には長さ・太さ共に1〜2cmに至る大きなクリトリスを持つ女性もいますが異常ではありません。

包皮の部分を含む陰核体の上端(割れ目の上端)から陰核亀頭先端までの長さは通常3cm~5cmです。

クリトリスの断面図

クリトリスの断面図(Figure 6)を見ると、尿道が無いことを除けば男性のペニスとほぼ同じ構造であることが分かります。左右対称の構造で、中央に仕切りがあり左右に偏らないようになっています。

黄色の神経Dorsal Nerve)を刺激すると、血管を通って血液が流れ込み、スポンジ状の海綿体に血液が溜まって勃起します。

Figure 6 : 陰核亀頭の断面図のイメージ。ペニスと同じような構造が5mm以内の亀頭に凝縮されているので神経の密度が高い。

  赤い管:動脈
  青い管:静脈
  黄色の束:重要な神経回路
  赤紫のスポンジ状のもの:海綿体
  ピンクの仕切り:白膜(海綿体を包む保護膜)

さらに、最新の研究によって細かい断面図が明らかとなりました(Figure 7)。クリトリスは、正面ではなく斜めから見たイラストが立体的で分かりやすいのです。なお、白い繊維状のものは靭帯または筋膜でクリトリスを支えています。筋膜の中にも神経や微細な血管が通っています。

Figure 7 : クリトリス亀頭の最新の断面図。血管の詳しい位置が判明した。

広義のクリトリスと内部構造

クリトリスの内部構造に関する知識は、損傷や性感覚の悪化を防ぐために不可欠です。多くの女性のクリトリスは大陰唇によって守られています。しかし、大陰唇の中にあるから安心、というわけではありません。

横から見ても分からない

保健体育の教科書によくある横向きの断面図(Figure 8)にはクリトリスが小さく描いてありますが、場所が分かったとしても単なるおまけにしか見えないでしょう。身体の中心線で切断すると亀頭だけになってしまいます。

Figure 8 : 女性の下腹部の断面図。身体の中身を解説する図なのにクリトリスの中身(全体像)が全く示されていない。

完全に解明されたのは1998年

外から見えるクリトリスは一部分だけであり、ほとんどの構成要素は内部に隠れています。

クリトリスの内部構造が本格的に研究されたのはごく最近のことであり、オーストラリアの泌尿器科医ヘレン・オコネル医学博士Helen Elizabeth O’Connell)の研究によって、1998年(平成10年)に完全な形で解明されました。

参考リンク

Anatomical relationship between urethra and clitoris(尿道とクリトリスの解剖学的関係)
https://www.auajournals.org/doi/10.1016/S0022-5347%2801%2963188-4
O’Connell HE, Hutson JM, Anderson CR, Plenter RJ. Journal of Urology. 1998年6月;159(6):1892–7.

氷山の一角に過ぎない

クリトリスは、外から見える小さな突起だけではなく、内部にまで広がる非常に複雑な構造を持っています(広義のクリトリス、Figure 9)。

体表に見える部分はクリトリス亀頭(陰核亀頭)のみで、皮膚の下にはクリトリス(陰核体、Clitoral Shaft)や、左右に分かれて骨盤内に伸びるクリトリス(陰核脚、Clitoral Crus)といった逆V字型の内部構造が隠れています。クリトリス全体は陰核亀頭と同じく敏感な性感帯です。

Figure 9 : 陰核全体のイメージ。実際に見えているのは陰核亀頭とそれを覆う包皮だけであり、ほとんどは体内に隠れている。左右に分かれているので中心線で切断すると亀頭だけになる。

実際には、クリトリス全体の長さ(亀頭から脚の先端まで)は7cm~11cmと推定され、勃起状態ではもっと長くなります。太さは4mm程度しかありませんが、長さは日本人男性の短小なペニスに匹敵する比較的大きな器官と言えます。

前庭球

さらに、クリトリスの脚の内側には、前庭球(ぜんていきゅう、Vestibular Bulbs)と呼ばれる球状の海綿体組織(勃起組織、Erectile tissue)が存在します(Figure 10)。

Figure 10 : 恥骨とクリトリス、前庭球の位置関係を示した模式図。クリトリスは恥骨結合の靭帯で吊り下げられており、前庭球も吊り下げられている。

一部の学者は、前庭球を広義のクリトリスの一部に含めて「クリトリス球根Clitoral Bulbs)」と呼んでいます(Figure 11)。

Figure 11 : 狭義:一般人がクリトリスと呼ぶ部分、広義:医学的にクリトリスとされる部分。クリトリス全体の模型を作成する際には「性的快感があり勃起する海綿体組織」である前庭球も含めてクリトリスと呼ぶことが多い。

前庭球もクリトリスと同様に性感帯であり、性的刺激をすると勃起します。クリトリス脚が細長く伸びているのに対し、前庭球はより太く、短いです。前庭球も左右対称の逆V字型の構造であり、長さは左右それぞれ3~7cmと推定されています(Figure 12)。

前庭球が性的興奮で膨張すると、バルトリン腺を圧迫して粘液を分泌します。性交時に、前戯によってクリトリスと前庭球を刺激することで、膣が濡れやすくなり、不快感や痛みを軽減することができます。

Figure 12 : クリトリスと前庭球の位置関係を示したイメージ。クリトリスは赤色の点線、前庭球は青色の点線の位置にあり、尿道口と膣口の外側にあることが分かる。膣にペニスが挿入されると前庭球が圧を受ける。

前庭球は尿道だけでなく膣を挟んでいます(Figure 13)。そのため、性交中、ペニスのピストン運動によって膣壁を押す圧力は、前庭球を介してクリトリス脚にも伝達されます。このようにして、間接的にクリトリスを刺激することで快感が増幅され、女性のオーガズムに良い影響を与えています。

Figure 13 : 最新のドイツの教科書に掲載されているクリトリスの図。大陰唇と小陰唇を透明化することでクリトリス、前庭球、尿道、膣の位置関係が明確に理解できるよう工夫されている。
参考リンク

Klitoris erstmals zur Gänze in Schulbüchern abgebildet(教科書に初めてクリトリス全体が描かれた)
https://www.diepresse.com/6097912/klitoris-erstmals-zur-gaenze-in-schulbuechern-abgebildet

クリトリス解剖学

骨盤との位置関係

女性の骨盤は横に広い構造で、真ん中に大きな空洞があります(Figure 14Figure 15)。

骨盤の前側(おなか側)には恥骨・坐骨、後ろ側(背中側)には仙骨・尾骨があります。女性の骨盤を下から見ると、女性の外陰部(産道にあたる)を囲んでいます。クリトリスは骨盤の前側(おなか側)にある恥骨結合Pubic Symphysis)の位置にあります。

Figure 14 : 女性の骨盤(グレイ解剖学)と女性器のイメージ図。右図は、左図に対応するように上下反転した。女性が脚を開いて椅子に座った時の女性器を下から見るとこのようになっている。
Figure 15 : 女性が洋式トイレで排尿する場合、Figure13で示したように女性器が真下になるように座る。女性の外陰部は尻を後ろに突き出したときに尿が真下に落下しやすい構造となっている。

クリトリスと恥骨結合

クリトリスは恥骨結合に完全に付着しています。クリトリスを硬い物体で強打すると、クリトリスがその硬い物体と恥骨との間で挟まれます(Figure 16)。

Figure 16 : 恥骨結合とクリトリスの拡大図(イラスト)。恥骨結合を下から上向きに強打するとその手前にあるクリトリスがつぶれる。クリトリスの神経が損傷、切断することもある。

女性器は「穴が開いているだけ」「割れ目があるだけ」のように見えますが、実際には恥骨結合でしっかりと固定され、フックにかかっている服のように吊り下げられている状態です(Figure 17)。

Figure 17 : 恥骨と女性器の位置関係を示したイメージ図。女性器の上の部分が骨に固定されている。

上が固定されているので、基本的に女性器は下向きに広がります。そのため、ペニス挿入時や会陰マッサージなど膣口を広げるには少し下向きに押すと良いです(Figure 18-A)。

しかし、クリトリスも海綿体も膣よりにあるため、性的に快感を得るためには上向きに刺激をする必要があります(Figure 18-B)。2021年(令和3年)に報告されたアメリカの研究では、女性はピストン運動よりも上下運動のほうが快感であることが示されています。

Figure 18 : 論文掲載の画像を一部修正。(A)膣はクリトリスを中心として下向きに広がりやすい。出産時も下に広がる。ペニスは下に押し下げながら挿入する。(B)挿入後は上向きに刺激するように意識する。
参考リンク

Women’s techniques for making vaginal penetration more pleasurable: Results from a nationally representative study of adult women in the United States(女性の膣挿入をより快感にするテクニック:米国の成人女性を対象とした全国代表的調査の結果)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33852604/
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249242
Devon J. Hensel ,Christiana D. von Hippel,Charles C. Lapage,Robert H. Perkins
PLoS One. 2021 Apr 14;16(4):e0249242.

クリトリス懸垂靭帯

陰核提靭帯(クリトリス懸垂靭帯、Suspensory ligament of clitoris)は恥骨結合とクリトリスを結ぶ深筋膜レベルの線維の束で、恥骨結合からクリトリスの深筋膜まで伸びており、陰核体の屈曲部を安定させています。この接続により、クリトリスを恥骨結合に固定しています(Figure 19)。

いっぱんに靭帯を打撲すると靭帯の組織が損傷し、炎症が起こります。この炎症反応によって、痛みを伝える神経を刺激し、痛みを引き起こします。また、靭帯の周囲にある血管が損傷して内出血を起こし、さらに痛みを増強させます。これらの損傷と炎症反応が複雑に絡み合い、強い痛みを発生させるのです。

Figure 19 : 論文掲載の画像。赤:クリトリス、紫:クリトリス懸垂靭帯。「じん帯」なので損傷すると猛烈に痛い。

最近の研究によると、クリトリスの靭帯は陰核提靭帯のほかに、恥丘とクリトリス本体を接続する大きな靭帯があることが判明しています。この靭帯は三角形と逆三角形の2層構造になっていて、腹部にある浅筋膜のうちカンペール筋膜(Camper’s fascia)とスカルパ筋膜(Scarpa’s fascia)の延長であり、それぞれ靭帯に変質したものと考えられています(Figure 20)。

このように、女性には腹部~恥丘~クリトリスのラインをつなぐ複数の靭帯があり、クリトリスと恥骨を強固に支えています。

Figure 20 : 論文掲載の画像。クリトリス(赤色)は、第1層の水色、第2層の青色の靭帯によって恥丘に固定されている。クリトリスは恥骨だけでなく恥丘にもつながっている。
参考リンク

The Suspensory Ligament of the Clitoris: A New Anatomical and Histological Description(クリトリス懸垂靭帯:新たな解剖学的・組織学的記述)
https://academic.oup.com/jsm/article-abstract/19/1/12/6961209
Charles Botter, Mégane Botter, Chiara Pizza, Cécile Charpy, Virginie Pineau, Simone La Padula, Jean-Paul Meningaud, Barbara Hersant
The Journal of Sexual Medicine, Volume 19, Issue 1, January 2022, Pages 12–20

クリトリス亀頭の血管と神経

クリトリスは陰核提靭帯によって恥骨と強固に接続されていますが、その接続点から血管と神経が伸びていて、複雑に絡み合っています(Figure 21)。

Figure 21 : 論文掲載画像。血管(赤と青)と神経(黄色)は最も太いものだけ描いてあるが、実際にはさらに細い血管と神経に枝分かれして複雑に絡み合っている。
参考リンク

Abdominoplasty and Clitoris Evaluation: A Prospective Study on Sexual Pleasure in Women Undergoing Abdominoplasty(腹部整形とクリトリスの評価:腹部整形を受ける女性の性的快感に関する前向き研究)
https://link.springer.com/article/10.1007/s00266-023-03301-6
Eloi de Clermont-Tonnerre, Frédéric Pigneur, Claire Guinier, Charles Botter, Simone La Padula, Jean Paul Meningaud & Barbara Hersant
Aesth Plast Surg 47, 1922–1930 (2023).

クリトリスと小陰唇の組織には、さまざまな種類の感覚細胞が含まれています。生殖小体と呼ばれる受容体は、触覚と振動に反応します。クリトリス全体には神経終末も密集しており、陰核亀頭には神経終末が最も集中しているため、触覚にとても敏感になります。ほとんどの女性はクリトリスの刺激によってオーガズムに達します(Figure 22)。

Figure 22 : 論文掲載画像。クリトリス亀頭の断面図。特にクリトリスの上側にある神経血管束は性感に重要。

  赤い管:動脈
  青い管:静脈
  黄色の束:重要な神経回路
□白い繊維状のもの:クリトリス懸垂靭帯と筋膜

クリトリスからの感覚情報、主に触覚の神経情報のほとんどは陰核背神経(いんかくはいしんけい、Dorsal Nerve of clitoris)によって伝達されます。陰核背神経は、脊髄節S2~S4(第2~4仙骨節)からの陰部神経(会陰神経、Pudendal Nerve)から枝分かれした末端神経であり、女性のクリトリスの感覚を司ります(Figure 23)。時には第1仙骨神経(S1)の背枝が会陰神経の神経線維に寄与することがあります。

Figure 23 : 論文掲載の画像。女性骨盤の断面。仙骨のS2、S3、S4から出た神経が子宮と肛門の間を通り、陰唇小帯、大陰唇、クリトリスに伸びている。

会陰神経は、身体の左右に1本ずつあり、クリトリスの右下と左下から伸びて、恥骨結合、靭帯を通って、クリトリスにも2本の陰核背神経としてつながっています(Figure 24)。

Figure 24 : 論文掲載の画像。クリトリスには左右2本の神経(陰核背神経)があり、それぞれ骨盤から左右に分かれて神経が伸びている。
参考リンク

Anatomy of the clitoris and the female sexual response(クリトリスの解剖学と女性の性的反応)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ca.22524
Rachel N. Pauls
Clin Anat. 2015 Apr;28(3):376-84. doi: 10.1002/ca.22524. Epub 2015 Mar 2.

クリトリスの神経線維数

これまで、人間のクリトリスの神経線維数を数えた研究は無く、1970年代に牛のデータを参考に算出した研究によって8000本程度と推定されてきました。そして最近までこのデータが信じられてきました。

しかし、2022年(令和4年)10月、オレゴン健康科学大学医学部のブレア・ピーターズ医学博士(Blair PetersFigure 25)は、人間のクリトリスには1万本以上の神経線維が存在するとの研究結果を発表しました。

Figure 25 : オレゴン健康科学大学医学部のブレア・ピーターズ医学博士 Blair Peters, M.D., an assistant professor of surgery in the OHSU School of Medicine(OHSU/Christine Torres Hicks)

この研究によると、性転換手術の過程で摘出された7人のクリトリスを顕微鏡で拡大し、画像解析ソフトを用いて実際に数えたところ片側だけで平均5140本の神経線維があることが判明しました。クリトリスは左右対称の構造であるため、人間のクリトリスには1万本を超える神経線維が存在すると結論しました(左右で10280本)。

ペニスの神経が約4000本であることから、本数だけで言えばクリトリスは2.5倍以上敏感であると考えられます。神経が多いのは性的に快感ではありますが、外部からの衝撃、性感染症や陰部神経の圧迫など、さまざまな状態によって痛み(クリトリス痛)が生じやすくなります。

参考リンク

Pleasure-producing human clitoris has more than 10,000 nerve fibers(快感を生み出す人間のクリトリスには1万本以上の神経線維がある)
https://news.ohsu.edu/2022/10/27/pleasure-producing-human-clitoris-has-more-than-10-000-nerve-fibers
OHSUオレゴン健康科学大学医学部

性的快感とクリトリス

クリトリスの役割

クリトリスは、唯一「性的快感sexual pleasure)を得ることを目的として存在する器官」です(Figure 26)。多くの女性にとって、クリトリスは神経支配が強く、刺激を受けると性感帯となりオーガズムを生じるという生理機能を持つため、非常に敏感な器官です。

指を使って擦る(Clitoral fingering)手法のほかに、シャワーや電動器具などを用いて直接刺激することによって、ほとんどの女性が性的興奮の絶頂(オーガズム、Orgasm)に達することが可能です。俗には「アクメ」「エクスタシー」「イク」「イッた」などと表現することがあります。

Figure 26 : NHKによるクリトリス解説動画。
参考リンク

はなしちゃお! 〜性と生の学問〜エロでも下ネタでもなく…“性”を意外な「学問」で深掘り!(NHK、女性器×生物学2024年7月29日公開)
https://www.nhk.jp/p/ts/47NWJQ9RP7/blog/bl/pz9jbbjeYa/bp/pX78bwYOB1/

オナニー(マスターベーション)

包皮が陰核亀頭の大部分を覆っている女性は、包皮を陰核亀頭の上から適切にマッサージすることでオナニー(マスターベーション)をすることができます。

日本国内では古くから、女性もオナニーを行っていたとされています。明治時代の浮世絵師、富岡永洗(Eisen TOMIOKA、1864年4月28日 – 1905年8月3日)が1890年に描いた作品「あーうらやましい」は、他人の性行為をシルエットで見ながらクリトリスオナニーをする女性を描いたものです(Figure 27)。

Figure 27 : 1890年頃 富岡永洗の浮世絵の春画「ああ、羨ましい」よく見ると膣口の上にあるクリトリスを触っていることが分かる。

一般的には、陰裂(割れ目)に沿って縦向きに刺激をする手法(Figure 28)か、或いは陰核背神経周辺の神経も含めて正円または楕円を描くように刺激する手法が良いとされています(Figure 29)。

Figure 28 : 女性が下着を着たまま陰裂に沿ってClitoral fingeringを実施している映像。単に陰部が痒いだけのようにも見えるので比較的行いやすい。
Figure 29 : 女性が直接クリトリス包皮を円を描くように指でなでる手法を解説している映像。ペニスとは異なり、横向きの刺激でも良いのが特徴的と言える。

ダブル刺激

クリトリスは膣よりも上に離れて位置しているため、ペニス挿入による直接刺激を受けにくいことが知られています。女性の性行為における満足度は、クリトリスへの直接的な刺激が大きく影響するにもかかわらず、クリトリスを無視した性行為が未だに一般的であることが大きな問題となっています(陰核亀頭と陰茎の接触不足問題、Figure 30)。

正常位での外部刺激は、通常、恥骨付近で受けるため、陰茎を膣に挿入して行う性交でオーガズムに達する女性は全体のおよそ35%にすぎないという調査もあります。

Figure 30 : 通常の成功におけるペニス挿入時の陰核の位置関係を示したイメージ。ペニスを挿入してピストン運動をしても陰核亀頭が刺激されないことが問題となっている。

その一方で、クリトリスへの同時刺激が加わることで、約70%以上の女性がオーガズムを感じることができるというデータが示されています。

最近では、膣内挿入と同時に、女性が自分の手やバイブレーターでクリトリスを刺激する「ダブル刺激」の重要性が強調されています(Figure 31)。

Figure 31 : 論文掲載画像で出典はFigure18と同じ。ダブル刺激の際にはクリトリスの神経(特に陰核背神経)の位置を意識して上側をなでるように刺激する。
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