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自転車女子の前傾姿勢とマンポジ、サドルとハンドルの高さ

ロードバイクのようなスポーツタイプの自転車は長時間乗っても尻が痛くならないようにサドルが高く、前傾姿勢となります。しかし、女性の場合は前傾姿勢によって女性器の尿生殖三角を圧迫することになるため、男性とは異なる問題が生じます。

前傾姿勢のメリット

一般の自転車では上半身を垂直にし骨盤を立てて乗ります。椅子に座る感覚で乗ることができますが、長時間乗ると坐骨結節を中心に尻が痛くなります。そのため自転車選手は前傾姿勢(エアロポジション、Aero Position)で乗ります。

腕で支える

骨盤を立てて(背筋をまっすぐ)座ると、体重の多くが坐骨結節の先端に集中します(Figure 1)。

Figure 1 : 坐骨結節のおおよその位置とサドルの関係。

スポーツタイプの自転車は一般的な自転車と比べてサドルを高くすることで、前傾姿勢で体重の一部が腕とハンドルに移ります(Figure 2)。その結果、サドルへの垂直荷重が減少し、お尻への負担が軽くなります。

また、サドルは尻を乗せるのではなく、太ももで挟む感覚で乗ることで坐骨結節への圧力をさらに減らすことができます。前傾姿勢は尻一点集中の荷重を避け、骨盤全体・腕・脚に分散するため、長時間の乗車でも痛みやしびれを減らせるのです。

Figure 2 : 腕に体重を乗せた前傾姿勢。これにより坐骨結節の負担が軽減される。

会陰部の圧迫を減らす

左右の坐骨結節の間に会陰部(会陰体)があり、正しい乗車姿勢であればサドルが会陰部を直接圧迫することはありません(Figure 3)。しかし、完全直立に近い姿勢だと、会陰部が尻や太ももの肉、脂肪組織とサドルに挟まれることで周りから圧迫され、血流が悪くなります。

前傾すると骨盤が前回転(前傾)し、坐骨結節から恥骨寄りの坐骨枝や太ももの内側寄りに荷重が分散されます。接触部位が変わることによって、会陰部の圧迫が減るため、しびれや血流障害のリスクを軽減できます。

Figure 3 : 坐骨結節と会陰部を後ろから見たイメージ図。

ペダリング効率

上体を立てると上半身に風を受け、風圧によって前に進みにくくなります。身体を前に倒すことによって空気抵抗が減るためエネルギー損失が少なくなります。

また、骨盤前傾は股関節を開きやすくし、大殿筋・ハムストリング・大腿四頭筋などの下肢筋群を効率よく使えるポジションになります。

特にロードバイクでは、前傾のほうが脚を大きく回せるためパワー効率が向上します。ペダルに力が伝わりやすく、スピードが出やすいので、自転車競技の選手は男女とも必ず前傾姿勢となります。

見た目がエロい

前傾姿勢によって背中は自然なS字カーブを保つことになり、長時間乗っても疲労が少なくなるという効果も期待できます(Figure 4)。

Figure 4 : 背中をS字に曲げている女性。自然なS字が良く、ここまで腰を反るのはあまり良くない。

尻を後ろに突き出して乗る前傾姿勢は、女子陸上選手のクラウチングスタートと同様に、背中、尻、太ももの曲線美が強調され、女性としての性的魅力をアピールすることができます(Figure 5Figure 6)。

最近では、女子自転車選手の前傾姿勢を見て性的に興奮し「サドルになりたい」という願望を持つ男性もいるようです。

参考リンク

サドルになりたい、結婚して!元ガールズケイリン選手が思わず笑いそうになった野次(日刊SPA)
https://nikkan-spa.jp/1889214/2
複数のガールズケイリン選手が印象的な野次として「サドルになりたいな〜」と言われた経験があると話している。

Figure 5 : 腰や太ももをあえて露出することによって女体の曲線美を強調している。
Figure 6 : 前傾姿勢で尻を突き出すことによって女体の曲線美を強調している女性の例。

女性特有のデメリット

本来は骨のない骨盤底に体重が乗ってはいけません。女性器は僅かに浮いているかまたは触れる程度が正しい姿勢です(Figure 7)。女性は女性器の圧迫を避けるため、過度な前傾姿勢を長時間継続しないように注意しなければなりません。

Figure 7 : 特に女性は、女性器の負担を減らすため、女性器をわずかに浮かせてこぐのが良いとされている。

開口部がふさがる危険性

骨盤を立てて(背筋をまっすぐ)座ると、坐骨結節で支えるため、陰核や尿道口、会陰部への直接圧迫は比較的少ないです。

これに対して前傾姿勢では、骨盤が前に傾くため、サドルの前方に圧力がかかりやすく、体重が外陰部の尿生殖三角の領域(特に陰核、尿道口)に集中しやすくなります(Figure 8)。

Figure 8 : 尿生殖三角は、恥骨結合(またはクリトリス)と左右の坐骨結節を結ぶ三角形の領域である。

女子は男子と比べて外陰部に開口部が多く、外陰部に障害が起こると開口部がふさがり排泄障害や生理困難になります(Figure 9)。特に尿道口が塞がるのは極めて危険です。

Figure 9 : 女性器のうち、小陰唇の内側にある開口部。

神経の麻痺

1895年には既に、女性が自転車に乗っている時に感覚が麻痺する可能性があると推測する研究者がいました。

神経圧迫によりクリトリスや陰唇を中心にしびれや痛みの原因になります。男女ともに股間の感度が低下する場合もあります。性行為時の性的快感が鈍くなり痛みだけを感じるため、不感症またはセックスレスとなる恐れがあります。

乗車後に自転車を降りた際に、その部分に血流が再び戻るため、その部分にチクチクする感覚を感じることがあります。この問題を解消するには正しいサイクリングテクニックにより股間の圧力を軽減するように意識します。

  • 坂道や加速時など、時々立ち上がる。
  • サイクリング中に時々、シートの位置を調整する。例えば、坂道を走るときは後ろ寄りに座り、少しの間だけノーズに座る。
  • あまり前にかがみ込まずに、時々起き上がって座る。

血流障害、陰唇肥大

不健康な乗り方で長時間自転車に乗ると、股間の血流が減少するため、男女ともに問題が生じる可能性があります。女性が長時間前傾姿勢を取ると女性特有の不快感や障害のリスクが高まります。

研究によると、前傾姿勢は、陰部の動脈(性器に血液を供給する動脈)に高い圧力をかけることが分かっています。股間の血流障害が起きやすくなります。

さらに、女子自転車選手で長時間の競技を続けると女性器の前半分に有害な圧力がかかり、外陰部の腫れのほか、「サイクリング外陰部症候群」と呼ばれるマンコの変形、陰唇肥大などのマンコの腫れ上がりや不快感を生じることがあります。浴場や更衣室で他人に見せられないほどの「奇形マンコ」になることもあり、その場合は正常なマンコの形状に戻すのに整形外科手術を要することがあります。

これらの症状は女子自転車選手だけに起こる、女子特有の職業病です。

前傾角度と女性器にかかる圧力

前傾角度は、上半身を前に倒す角度のことであり、直立姿勢(地面に対して垂直の姿勢)を0度として、背中を何度倒すかを計測します(Figure 10)。

Figure 10 : 骨盤の角度とサドルにかかる圧力の関係。前傾すればするほどサドル前部に圧力がかかる。

直立に近い姿勢(約0〜20度)

ママチャリや通学用自転車は直立に近い姿勢(約0〜20度) となります(Figure 11)。骨盤がほぼ垂直で、坐骨結節で体重をしっかり支える体制ですがスピードは出ません。

骨盤を立てて坐骨で体重を支える姿勢はスポーツには向いていないものの、会陰部への圧迫は最も少なく、女性器への影響はほぼ軽減されることから女性に優しい乗り方と言えます。

Figure 11 : ほぼ直立に近い姿勢の例。サドルがクリトリスに当たらないように座っている。

たまに、中程度の前傾(約20〜40度)となって尻への荷重を減らすと圧力が分散され、長時間の乗車でも耐えやすくなります(Figure 12)。

また、前傾角度を変えることによって他人にバレることなくサドル上のマンコの位置(マンポジPosition of Manko)を変えることができます。前傾になると尿道付近を押さえておしっこを我慢することができます。

Figure 12 : 中程度の前傾。乗車しながら前傾の角度を変えることによって圧力を分散させる。

深い前傾(約45度以上)

ロードバイクや競技用自転車はより深い前傾姿勢(約45度以上)になりやすく、サドルの前部に圧力がかかります。最も深い前傾では骨盤が前に倒れ、サドルの細いノーズ部分(先端)にだけ圧力がかかります。

前傾角度が大きいと、サドルのノーズ部分が会陰部やクリトリス付近に押し付けられるため、性器の神経が圧迫されます。よりアグレッシブな乗車姿勢で、特にハンドルバーがサドルよりもはるかに低い場合、サドルの問題が発生するリスクが増加する傾向があります(Figure 13)。

  • 痛みやしびれ
  • 毛包炎や皮膚炎の発生
  • 血行障害による性機能障害
  • リンパ腺、リンパ管障害
  • 尿道や膣の刺激による不快感や感染リスク増加
Figure 13 : 極端な前傾の例。自転車競技でスピードを出すための一時的な姿勢であり、この姿勢を継続してはいけない。

サドルの位置と女性器への影響

高価なサドルとクリームを使っても、自転車に正しく乗らなければ、シートの痛みは治りません。

サドルの前後

サドルの前後調整もサドル圧力に影響します。

サドルが前方に配置されすぎると、サドルの外側の端と内腿の間で摩擦が発生する可能性が高くなります(Figure 14)。

Figure 14 : サドルが前側にあると左右の太ももが擦れて、サドルとの間で摩擦が起こる。

逆に、サドルがボトムブラケットBottom Bracket、ペダルの回転の中心)より後ろすぎると、骨盤を前方に回転させたり、サドルの先端に前方に滑り込んだりするときに、女性器により大きな圧力がかかります(Figure 15)。

Figure 15 : サドルが女性器にくい込んでいる例。サドルの位置は、ボトムブラケットの位置を基準として調整する。

サドルの高さ

サドルが高すぎると、ライダーとサドルの間の圧力が高まります。サドルが低すぎると、全体的な圧力は軽減されますが、骨盤が不安定になり、ペダルを踏むたびに骨盤が持ち上がって過度の摩擦が生じる可能性があります。

サドルを少し下げることで、サドルの前部と中央部にかかる圧力を軽減できます。

サドルからペダルまでの距離を正しく取ることが重要です。そうしないと、ペダリングパワーが不足するだけでなく、サドルの痛みやその他のさまざまな怪我のリスクが高まります。

適切なサドルの高さを見つけるには、自転車に座り(片側を壁につけるか、友人に自転車を垂直に支えてもらいます)、片方のペダルを床に一番近い一番低い位置にします。かかとをペダルに乗せた状態で、脚はまっすぐ伸ばします。実際に乗るときは、足の指の付け根がペダルにかかり、膝は少し曲がった状態になります(Figure 16)。

サドルの位置を調整したら、反対側でも同じ動作(かかとをペダルに乗せ、脚をまっすぐ伸ばす)を繰り返し、骨盤が水平に保たれているか確認しましょう。サドルが高すぎると、ペダルを漕ぐ際に骨盤が左右に揺れてしまい、サドルの痛みを引き起こす可能性があります。

Figure 16 : 足の指の付け根でペダルを一番下まで踏んだ時に膝が少しだけ曲がるのが正しい。

サドルの傾き

サドルのノーズ(前部の細い部分)がどれだけ上下に傾けるかの調整は試行錯誤が必要で、非常に微妙な場合があります。サドルのノーズが上向きに傾いているのを好む女性はほとんどいません。恥骨またはクリトリスがぶつかって痛いからです。通常、最適な位置は水平か、わずかに下向きに傾けた状態です(Figure 17)。

軟部組織に痛みがある人は、ノーズ部分を軟部組織から遠ざけようとして、急激に下向きに傾けたくなるかもしれませんが、やり過ぎには注意が必要です。サドルの角度が下がりすぎると、重力によってライダーがサドルの狭い部分に滑り落ち、会陰部と外陰部の圧力が高まります。常に前滑りする姿勢と格闘することになってしまいます。

水平サドルは、正しいライディング姿勢を促し、軟部組織の痛みを大幅に軽減します。

Figure 17 : 最近は水平を計測するアプリがある。

左右の脚の長さ

左右の脚が同じ長さとは限りません。女性は脚の左右の長さが1cm違うだけで、片側の尻または片側の大陰唇が痛くなるという報告があります。

お尻の片側が痛む場合は、脚の長さに差があり、短い方の脚をペダルに届かせようとして骨盤がずれている、または曲がっている可能性があります(整体で治る場合があります)。

脚の長さが1cmでも異なる場合、調整をした方が良いです。脚の長さは簡単には変えられないので靴を厚底にする、ペダルの厚さを変えるなど股間からペダルまたは地面までの距離が同じになるように工夫します。きちんと調整することで、体重が最適に分散され、不快感が大幅に軽減されます。

女性サイクリストの対策

自転車競技の女子選手だけでなく、スポーツタイプの自転車に長時間乗る女性は外陰部障害のリスクを理解して、違和感や痛みがある場合には直ちに対策を考える必要があります。

乗車姿勢の見直し

自転車に長時間乗るのであれば、サドルの高さ・角度、ハンドルの位置を自分の体格に合わせて見直し、骨盤底への圧力を減らします。

女性専用サドル(中央に穴や溝があるタイプで会陰部の圧迫を軽減するサドル)のように、より快適な自転車のサドルを選ぶことに加え、ライディングポジションの改善によって女性器への圧力を減少させることができます(Figure 18)。

Figure 18 : 中央に溝があるサドル。女性器への圧力を減らす効果があるとされる。

スピードを競わない自転車女子にとって、ハンドルバーを少し高くしてもデメリットはほとんどありません。これは通常、より快適で直立した姿勢になり、坐骨への荷重がかかりやすく、女性の場合は軟部組織の痛みを軽減します。ハンドルバーをサドルよりも高く設定すれば、長時間前傾姿勢を避けることができます(Figure 19)。サドルの座り心地が悪い場合は、ハンドルバーをわずか1.5cm高くするだけで改善される可能性があります。

Figure 19 : ハンドルバーをサドルより高く設定したクロスバイクの例。

適切な服装とケア

ジーパンで自転車に乗って強度の運動をした結果、股間が腫れて血腫ができたという症例があります。自転車に長時間乗る場合は摩擦を減らし皮膚トラブルを防ぐため、適切なボトムスを履かなければなりません。

できれば女性器を保護するパッド入りショーツ(女性用サイクルパンツ)が良いです(Figure 20)。

また、女性は女性器周辺の血行とリンパの流れが滞っていることに注意するべきです。自転車に乗った後は必ず女性器周辺を入念にリンパマッサージするとともに、股間用のクリームを塗ってケアを行います。

Figure 20 : ショーツにパッドが縫い付けられているサイクルパンツの例。

体幹を鍛える

体幹の強さは、男女とも自転車に乗る際の姿勢に大きく影響します。

脚を回しながら骨盤の傾きをコントロールする体幹の筋力が不足していると、走行中に骨盤が本来よりも前に傾いてしまいます。その結果、股間の軟部組織の痛みを引き起こし、ペダリングのパワーを奪ってしまう可能性があります。

自転車で体幹の筋肉を正しく使うには、へそを背骨の方に引き、尾骨を下に丸め、腰を少し丸める(少なくとも反らない)ことを意識します(Figure 21)。この姿勢を自然にできるようになるには、腹横筋、下腹部、臀筋を強化する必要があります。

これらの筋肉は、自転車に乗る時だけでなく、他の動作でも骨盤を安定させる役割を果たします。これらの筋肉を強く保つことで、股間だけでなく全身の健康が守られます。

Figure 21 : 自転車で腰を反ってしまう女性は体幹筋力が不足している。体幹を鍛えると前傾姿勢でも背中が反らなくなる。
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