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女性サイクリストはおしっこの不快感と性的苦痛を経験しているとの研究結果

自転車女子の症例まとめ #4:泌尿生殖器の機能低下

オランダ最大の女性サイクリング協会の女性会員114名とランナー33名のアンケート調査を分析したところ、2時間以上のサイクリング後、排尿困難、排尿困難、性器の痺れ、外陰部の不快感がそれぞれ認められ、泌尿生殖器の過剰使用による傷害や性的不満が非常に多く発生していることが分かりました。

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概要

オランダ・マーストリヒト大学医療センター(Maastricht University Medical Center+)の泌尿器科医トム・ハーマンズ医学博士Dr. T.J.N. (Tom) HermansFigure 1)らの研究グループは、2016年(平成28年)にオランダ最大の女性サイクリング協会の女性サイクリストにおける泌尿生殖器の過剰使用による障害や性的機能障害について研究結果を公表しました。

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Figure 1 : トム・ハーマンズ博士(Dr. T.J.N. (Tom) Hermans)©VieCuri Medisch Centrum

分析の結果、この研究の結果は、サイクリングクラブ活動に積極的に参加している女性サイクリストの間で、泌尿生殖器の過剰使用による傷害や性的不満が非常に多く発生していることが分かりました。この研究論文は2016年1月に「The Journal of Sexual Medicine」誌に掲載されました。

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参考リンク

Urogenital and Sexual Complaints in Female Club Cyclists—A Cross-Sectional Study(女性クラブサイクリストにおける泌尿生殖器および性器の症状に関する横断的研究)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1743609515000065
https://academic.oup.com/jsm/article-abstract/13/1/40/6940001
T.J.N. Hermans, R.P.W.F. Wijn, B. Winkens, Ph.E.V.A. Van Kerrebroeck. The Journal of Sexual Medicine Volume 13, Issue 1, January 2016, Pages 40-45

研究の要旨

⼥性は男性に⽐べて坐⾻結節間の距離が⻑いため、サイクリング関連の泌尿⽣殖器の軟部組織損傷や使いすぎによる障害を起こしやすいと仮説的に考えられます。この調査はサイクリンググループの積極的な参加者である⼥性サイクリストの泌尿⽣殖器および性的苦情の有病率と期間を推定するために実施されました。

調査方法

2013年(平成25年)4月から10月にかけて、オランダ最大の女子自転車協会の会員350名にデジタルアンケートが電子メールで送付され、オランダの女子陸上競技協会350名(ランナー)にはニュースレターで送付されました。ランナーは、運動選手のなかで外陰部および会陰部への外的圧力を直接受けない対照群として調査されました。

そのうち、定期的に2時間以上サイクリングを行うサイクリスト114名(32.6%)と、定期的に1時間以上ランニングをするランナー33名(9.4%)から回答を得ました。回答者はすべて18歳以上の健康なボランティアで重⼤な合併症を患っていませんでした。

事前に定義された国際的な定義を使用して、泌尿生殖器の過剰使用による傷害および性的苦痛の発生率と期間を評価しました。

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調査結果

サイクリスト外陰部症候群

この研究では、サイクリスト外陰部症候群は⼤陰唇の⽚側または両側の外陰部の浮腫と定義されました。外陰部の浮腫はサイクリスト40⼈(35.1%)、ランナー0人で、9⼈のサイクリストは浮腫が残りました。

女子サイクリストは不快感を経験している

2時間以上サイクリングした後に、22.2%が排尿困難、34.9%が性器のしびれ、40.0%が外陰部の不快感を経験したとされています(最大持続時間48時間)。これらの訴えは対照群(ランナー)にはみられませんでした。

サイクリストの50.9%が少なくとも1つの泌尿生殖器の過剰使用障害を経験しています。この研究の結果は、サイクリンググループに積極的に参加している女性サイクリストの間で、泌尿生殖器の過剰使用による傷害や性的不満が非常に多く発生していることを示唆しています。

サドルが広すぎると排尿困難になる

この研究では、サドルを広くすると外陰部の不快感は減少するが、広すぎるサドルは排尿困難と有意に関連していました。

  • サドルが狭すぎる→外陰部を圧迫して不快感
  • サドルが広すぎる→排尿困難

挿入時性交痛と性機能低下

一部の女子サイクリストは挿入時性交痛性機能低下を報告しましたが、これらの訴えは対照群(ランナー)にはみられませんでした。

  • 女子サイクリストの40.0%は、サイクリング後の挿入時性交痛があり、運動後48時間まで続いた
  • 女子サイクリストの34.1%は、サイクリング後1週間は性交が無い
  • 女子サイクリストの18.3%は、性機能障害の症状があり、12.8%はオーガズムに達するのがより困難である

挿入時性交痛(そうにゅうじせいこうつう、Insertional dyspareuniaFigure 2)」とは、外陰部や膣のけが・炎症、陰部神経の過敏等のため、勃起した男性のペニス(Penis或いはTinko)を膣内に挿入する際に膣口近くに痛みが生じる状態のことです。性機能低下は性的興奮または性的快感を得にくい状態のことです。

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Figure 2 : 膣挿入のイメージ(肛門ではないことに注意)。膣が十分に濡れていても、膣口に炎症があれば挿入時に痛みを生じることがある。

補足

以下、当サイトによる補足です。

比較対象

サイクリストのサドルの影響を調べる方法として、サイクリストと非サイクリストを比較する調査方法があります。この研究ではランナーにも同じアンケートが実施されました。

女子陸上選手などマンコの圧迫がないと思われる競技の女子アスリートと比較することによって、女子アスリート全般に共通する症状なのか、サドルの影響による症状かを判別することができます。

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関連する先行研究(1999年)

1999年(平成11年)に、アメリカ・ニュージャージー医科歯科大学(現在はラトガース大学と統合)の泌尿器科/外科のマイケル・ラサール医学博士Dr. Michael Drew LaSalleFigure 3)らの研究グループは、レクリエーション目的の女性サイクリスト282名を対象とした横断研究において、約3分の1が会陰部外傷を経験しており、そのうち18%に血尿または排尿困難、34%に会陰部のしびれを伴っていたを報告しました。

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Figure 3 : マイケル・D・ラサール博士(Dr. Michael Drew LaSalle)

これらの症状の頻度と重症度は、週の自転車走行時間と走行距離、および生涯の自転車走行時間と走行距離と関連していました。

参考リンク

Sexual and urinary tract dysfunction in female bicyclists(女性自転車利用者の性機能障害および尿路機能障害)
https://www.researchgate.net/publication/246115644_Sexual_and_urinary_tract_dysfunction_in_female_bicyclists
LaSalle M., Salimpour P., Adelstein M., Mourtzinos A., Wen C., Renzulli J., Goldstein B., Goldstein L., Cantey-Kiser J., Krane R.J., et al. J. Urol. 1999;161:269.

アンケートの実施が2013年

1990年(平成2年)から2010年代前半にかけて、世界中で女性サイクリストが急増し、多くの女性が排尿または性機能の不快感を経験しました。それは当時、サイクリング界隈に「女性用」という概念が無く、男性の身体(股間の形状)に合わせたサドルと自転車を使っていたためです。

2010年頃まで、女性サイクリストの研究と女性の身体(股間の形状)に合わせたサドルの開発が十分ではなかったため、多くの女性がサイクリスト外陰部症候群などの重篤な症状になりました。

前述の1999年の研究で、多くの女性が泌尿生殖器疾患を訴えたのも、股間の保護が不十分だった可能性があります。

2010年以降に世界の有名女性自転車選手が外陰部の治療を公表するようになり、研究も盛んになりました。この研究は、論文掲載は2016年(平成28年)ですが、アンケートが実施されたのは2013年(平成25年)です。女性サイクリストのなかにはアンケート実施時にすでに重篤な外陰部の症状があった人がいてもおかしくはありません。

また、重篤な症状に我慢できずにサイクリングをやめてしまった可能性もあります。

現在は改善されている

最近は、女性用の用具が次々と開発され、陰部の不快感を何度か経験することはあったとしても、それを我慢するのではなく重篤な障害になる前に各自工夫をするようになりました。

注:予防が不要になったのではありません。特に女性は性器の保護と疾患の予防は絶対に必要です。

2018年の研究では、パッドやサイクルパンツなど股間を保護し、適切に疾患を予防すれば、むしろ「性機能が改善される」ことが分かっています。

競技を問わず女子選手にとって股間の保護は極めて重大な問題であり、大陰唇の腫れがあった場合は直ちに改善すべきです。一部の女性はそれを軽視して、または周りから「大した問題ではない」などと言われて放置したことにより、深刻な後遺症となることがあります。

プロのサイクリストよりも一般の自転車利用者の方が注意が必要と思われます。

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