もともと男性の前立腺機能のチェックリストである国際的尺度の国際前立腺症状スコア (IPSS)は、女性の排尿障害の初期の診断にも使えることが知られています。日本語版IPSSは1990年代に翻訳したものが作成され、妥当性・信頼性が確認されています。

IPSS・AUA-SIの概要
AUA-SI
AUA-SI(アメリカ泌尿器科学会症状スコア、American Urological Association Symptom Index)は、アメリカ泌尿器科学会(AUA: American Urological Association)が、1992年(平成4年)に男性の下部尿路症状(LUTS: Lower Urinary Tract Symptoms)の重症度を定量的に評価するために開発されました。
下部尿路症状(LUTS)とは、排尿(おしっこ)に関連する自覚症状の総称であり原因は様々です。
- 蓄尿症状(Storage symptoms):昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁
- 排尿症状(Voiding symptoms):尿線途絶、尿勢低下、排尿遷延、排尿時間延長
- 排尿後症状(Post-micturition symptoms):排尿後の残尿感、排尿後滴下
AUA-SIは、7つの質問でLUTSの症状の重症度を数値化して評価する尺度として有用性が高く、アメリカ国内で急速に普及しました。
IPSS
しかし、症状の程度だけでなく「患者がどれほど困っているか」を反映するため、生活の質(QoL: Quality of Life)への影響を評価すべきではないかという議論が生じました。
翌年の1993年(平成5年)、世界保健機関(WHO)と国際前立腺症学会(ICS)が、AUA-SIを国際的に普及させる目的で国際標準化したものが、IPSS(国際前立腺症状スコア、International Prostate Symptom Score)です。AUA-SIの7項目をそのまま採用し、さらに生活の質に関する1問を追加しました。
IPSSは「I-PSS」と表記することもあります。現在は泌尿器科領域において臨床・研究の国際標準ツールとして広く用いられています。

日本語版
日本語版IPSSは1990年代にAUA-SI/IPSSを翻訳したものが作成され、その後いくつかの研究で妥当性・信頼性が検証されています。現在、日本の泌尿器科臨床では標準的に用いられています。
女性にも使える
前述のとおり、IPSS・AUA-SIはもともとは男性の前立腺肥大症を対象としたものでしたが、排尿に関する7項目(残尿感、頻尿、尿線途絶、尿意切迫、尿線細小、排尿開始時のいきみ、夜間頻尿) は、男性の前立腺特有の質問ではありません。下部尿路症状(LUTS)を評価しており、男女問わず起こり得る症状です。

そのため、女性の下部尿路症状(LUTS)の評価にも有用であるとされています。2009年(平成21年)の研究では、日本人女性にIPSSを適用することは可能であり、IPSSの信頼性・妥当性は男性と同程度で、女性評価にも適切であることが分かりました。また、骨盤臓器脱に随伴する下部尿路症状や、排尿障害やパーキンソン病など神経疾患による排尿障害の重症度を測るのにも有用であることが分かっています。
ただし、女性特有の尿失禁など、女性特有の症状はカバーされないため、補助的な質問票と併用されます。
Psychometric analysis of international prostate symptom score for female lower urinary tract symptoms(女性下部尿路症状に対する国際前立腺症状スコアの心理測定分析)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19371926/
Okamura K, Nojiri Y, Osuga Y, Tange C. Urology. 2009 Jun;73(6):1199-1202.
排尿症状に関する7項目(日本語版)
残尿感、昼間頻尿、尿線途絶、尿意切迫感、尿勢減弱、腹圧排尿、夜間頻尿の7つの質問項目から構成されます。そのうち、質問Q1~Q6は、過去1か月間にどれくらいの頻度で尿のトラブルが発生しているかを回答します(0点が正常であり、点数が高いほどトラブルが多い)。なお、失禁に関する質問はありません。
0 = 全くない(Not at all)
1 = 5回に1回の割合より少ない(Less than 1 time in 5)
2 = 半分より少ない(Less than 1/2 the time)
3 = 半分くらい(About 1/2 the time)
4 = 半分よりも多い(More than 1/2 the time)
5 = ほぼ毎回(Almost always)
夜間頻尿に関するQ7は、患者が夜間に何回排尿のために起きるかに基づいて0から5の点数が付けられます(つまり、1回であれば1点、5回であれば5点)。

Q1. 残尿感(Incomplete Emptying)
Q1. 過去1か月間に、排尿後にまだ尿が残っている感じがどのくらいありましたか?
英語版
Over the past month, how often have you had a sensation of not emptying your bladder
completely after you finish urinating?
Q2. 頻尿(Frequency)
Q2. 過去1か月間に、2時間以内に再び排尿しなければならないことがどのくらいありましたか?
英語版
Over the past month, how often have you had to urinate again less than 2 hours after you finished urinating?
【補足】トイレに行った回数のうち、前回の排尿からの間隔が2時間未満であった割合を回答します。
Q3. 間欠性(Intermittency)
Q3. 過去1か月間に、尿が途中で何度も途切れることがどのくらいありましたか?
英語版
Over the past month, how often have you found you stopped and started again several times when you urinated?
【補足】トイレに行った回数のうち、出たり止まったりする排尿であった割合を回答します。
Q4. 尿意切迫感(Urgency)
Q4. 過去1か月間に、尿を我慢するのが難しいと感じたことがどのくらいありましたか?
英語版
Over the past month, how often have you found it difficult to postpone urination?
【補足】「difficult to postpone」=延期が難しい
「尿を我慢するのが難しい」とは、徐々に尿意が強まるのではなく、急に強い尿意がやってきて抑えにくい感覚のことです。「そろそろトイレに行こうかな?」と感じることもなく突然やってくるので、尿意の予測ができない感覚です。トイレに行った回数のうち突然強い尿意が来た割合を回答します。

Q5. 勢いの弱さ(Weak Stream)
Q5. 過去1か月間に、尿の勢いが弱くなったと感じたことがどのくらいありましたか?
英語版
Over the past month, how often have you had a weak urinary stream?
【補足】トイレに行った回数のうち、排尿の勢いが弱かった割合を回答します。
Q6. 緊張(Straining)
Q6. 過去1か月間に、排尿を始めるのにいきむことがどのくらいありましたか?
英語版
Over the past month, how often have you had to push or strain to begin urination?
【補足】「push or strain」=腹圧で押し出すか、下腹部に力を入れて排尿した回数を回答します。
Q7. 夜間頻尿(Nocturia)
Q7. 過去1か月間に、夜寝てから朝起きるまでに通常は何回排尿のために起きましたか?
英語版
Over the past month, how many times did you most typically get up to urinate from the time you went to bed at night until the time you got up in the morning?
【補足】「most typically」=夜中にトイレのために起きる回数が日によって異なる場合は、特に多かった日や少なかった日を除いて、通常の回数を回答します。

排尿症状スコアの計算方法
排尿症状に関する7問については、各質問の点数は各選択肢の先頭の数値(0点~5点)であり、7問の点数を合計します。35点満点で、8点以上で尿路異常の疑い、20点以上で重篤な症状と判定されます。
- 0~7点:軽度の症状
- 8~19点:中等度の症状(医療機関の受診を推奨)
- 20~35点:重篤な症状(診察・治療が必要)
Q1、Q3、Q5、Q6の点数が高ければ排出障害が強く、Q2、Q4、Q7の点数が高ければ蓄尿障害が強いと考えます。

追加された質問(8問目)
排尿症状スコアのQ1~Q7は各5点ですから、1つの症状だけが強く出て、他の症状が無ければ5点(軽度の症状)となってしまいます。夜間頻尿で睡眠障害、尿意切迫で外出制限など、すでに日常生活で困っていることがあったとしても、軽度と判定されます。
質問Q8のQoLスコアは現在の排尿状態に対する患者自身の満足度を表す指標です。排尿症状のスコアが低くても、本人が悩んでいれば日常生活に影響が出ているということであり、治療の対象になります。
- IPSS Q1~Q7「症状の量」:症状の重症度、客観的な頻度・強度
- IPSS Q8「症状のつらさ」:患者の主観的満足度、生活への影響

Q8. 生活の質(Quality of Life)
Q8. 現在の尿の状況がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか?
【補足】QoLの質問は1問だけであり、0点~6点の6点満点となります。
英語版
If you were to spend the rest of your life with your urinary condition just the way it is now, how would you feel about that?(直訳:もし今のような排尿障害を抱えたまま残りの人生を送ることになったら、あなたはどう感じるでしょうか?)
0 = Delighted
1 = Pleased
2 = Mostly satisfied
3 = Mixed
4 = Mostly dissatisfied
5 = Unhappy
6 = Terrible
診断結果、スコアの見方
質問Q8は、患者の認識された生活の質に関するもので、短時間で簡便に評価できるようにするため、複数項目ではなく1問形式とされました。複数の国際研究によって、この1問だけで患者満足度や治療効果判定に十分な指標となることが確認されています。
排尿症状の治療は、医師が決めるよりも「患者が困っているかどうか」「治療を希望するかどうか」が重要視されます。
QoLスコアが2点以上の場合、とても満足(Delighted)、満足(Pleased)という選択肢があるにもかかわらず、それを選ばなかったのですから、「改善できるならしたい」というサインであり、本人が何らかの治療を希望している可能性があります。
排尿症状スコアが軽症でも、QoLスコアが2点以上(中等症以上)なら治療を検討する価値があると判断されます。
- 0~1点:軽症
- 2~4点:中等症
- 5~6点:重症



