サドルの圧迫による外陰部の変形(サイクリスト外陰部症候群)は、特に女子競輪選手(ガールズケイリン)や長距離の自転車競技選手(ロードレーサー)に見られます。競技や長時間の練習に伴う慢性的な圧迫や摩擦が原因で生じることがあり、医学的には外陰部軟部組織の肥厚や変形として報告されています。

サイクリスト外陰部症候群
概要
サイクリスト外陰部症候群(Cyclist’s vulva、Vulvar swelling in cyclists)は、女子競輪選手(ガールズケイリン)や長距離の自転車競技選手(ロードレーサー)などの女性サイクリストのマンコ(大陰唇や周囲の軟部組織)の片側だけが膨張して変形する病変です。
肥大しすぎると男性の睾丸(金玉、Golden balls)がぶら下がっているかのような奇形マンコとなることがあります(Figure 1、Figure 2)。


女性器特有の股間の形状である、いわゆる股下デルタ(Crotch Delta、Figure 3)の部分が三角形でなくなり、肥大した部分がサドルを通して過度の圧力を受け、痛みや不快感を引き起こします。
なお、この病名は、海外の文献に使われている用語「Cyclist’s vulva」を和訳したものであり、日本語での正式名称は今のところ存在しません。

サイクリスト結節とは異なる
サイクリスト外陰部症候群に似た症状として、サイクリスト結節(バイカーズ結節)があります。会陰結節性硬結または「第三の金玉」とも呼ばれる腫れで、女性だけでなく男性にも発生する外陰部の良性の硬いしこりです。
また、自転車女子が事故によって股間をぶつけたときの外陰部外傷や大陰唇の腫れとも異なります。
主な症状
大陰唇や小陰唇の形は個人差がありますから、多少のマンコの変形は異常でありません。
片側だけ腫れる
サイクリスト外陰部症候群は、女性の大陰唇が「片側だけ」大きく腫れる症状を特徴とし、激しい練習をする女子自転車競技選手(ロードレーサー)、女子競輪選手(ガールズケイリン)に発生します(Figure 4、Figure 5)。例外的に激しい室内サイクリングや乗馬をする女性にも発生することがあります。


軽度の炎症であれば休養・アイシング・摩擦軽減の処置だけで十分です。自転車に乗るのを止めると腫れが治まる場合もありますが、ほとんどの場合、腫れは永久に残ります(Figure 6)。さらに、放置したまま自転車に乗り続けると、陰唇の痛みを伴う腫れは進行するため、不快感から自転車に乗る姿勢を変えるようになり、膝の痛みやその他の慢性的な全身の痛みや炎症に悩まされるようになります。

無意識にマンポジを直す
ある女子サイクリストは自転車に乗るときに、伸びた陰唇を丸めて中に入れて痛みを我慢していたとのことです。
サイクリスト外陰部症候群を罹患している女子選手は椅子に座るときに、伸びた陰唇が座面に当たって違和感があります。体重で圧迫されて痛みを感じることがあり、サドルや椅子に座ることさえ困難になることがあります。
そのため、男性がチンポジを直す(ペニスをつかんでペニスの向きを調整する手技、Positioning of Tinko in underwear)ように、座るときにパンティの中に手を突っ込んで伸びた陰唇をマンコの中に入れ込むために、マンポジ(マンコのポジション、Positioning of Manko、Figure 7)を調整する必要があります。そして、無意識のうちにマンポジを直すようになり、周りから性的な目に見られることもあります。

また、ショーツのクロッチ部分から陰唇がはみ出したり、くい込んだりすること(ハミマン、Vagina slip、Figure 8)があります。スキニージーンズや水着のような体にぴったりフィットする服を着るのは不可能です。

海外の体験談、報告例
最近、海外の女子選手たちが体験談を報告しています。女性たちは何か月も何年も不快感に耐え、最終的には手術を受けるか、競技をやめるしかなくなることもあると話しています。
2016年リオパラリンピックに出場したイギリス代表の女子自転車選手ハンナ・ダインズ選手(Hannah Dines、Figure 9)は、自転車に乗る際の摩擦による痛みや腫れに長年悩まされ、2年後の2018年に外科医による2回の手術を受け、脂肪腫を除去したことを公表しました。2回とも癌の有無を調べましたが、いずれも陰性でした。

‘I had a huge swelling’: why my life as a female cyclist led to vulva surgery(「ひどい腫れがありました」:女性サイクリストとしての私の人生が外陰部手術につながった理由 – ハンナ・ダインズ) – the Guardian
https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2019/mar/26/hannah-dines-saddle-research-pain-swelling-female-cyclists
ある女子ワールドツアーチームでは、半数の女性が陰唇手術を検討、あるいは実際に手術を受けた、あるいは陰唇の変形のために自転車に乗る際の姿勢を変えざるを得なかったと報告されています。
2016年にオランダ最大の女性サイクリング協会の女性会員114名を対象に行われた調査では、35.1%が片側または両側の外陰部の腫れを訴えています。
Urogenital and Sexual Complaints in Female Club Cyclists—A Cross-Sectional Study(女性クラブサイクリストにおける泌尿生殖器および性器の症状に関する横断的研究)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1743609515000065
T.J.N. Hermans, R.P.W.F. Wijn, B. Winkens, Ph.E.V.A. Van Kerrebroeck. The Journal of Sexual Medicine Volume 13, Issue 1, January 2016, Pages 40-45
オーストラリアのプロレーシングサイクリストのローレッタ・ハンソン選手(Lauretta Hanson、Figure 10)は、サイクリングによる陰唇肥大のほかに、子宮腺筋症と子宮内膜症も患っていることが判明し2022年に手術を受けました。現在は競技に復帰しています。

Pro rider Lauretta Hanson tolerated saddle pain while cycling, but says there are solutions to the uncomfortable situation(プロライダーのローレッタ・ハンソンはサイクリング中のサドルの痛みに耐えたが、この不快な状況には解決策があると語る。) – Australian ABC NEWS
https://www.abc.net.au/news/2023-10-29/lauretta-hanson-saddle-pain-labia-hypertrophy-cycling/102964030
アメリカの雑誌「Bicycling(www.bicycling.com)」が2023年に実施した調査およびその他の調査では、女性回答者の約50%が長期的な性器の腫れや変形を経験しており、16%は持続的なしびれを経験していました。女性たちは、痛みを感じながら自転車に乗ること、乗車時間を短縮すること、あるいは長期間自転車に乗らないことを頻繁に経験していると回答しました。
また、回答者89人のうち12人(1人を除く全員がアマチュア)は、手術を検討または受ける必要があるほど深刻な症状だと回答しました。
引退理由になる可能性がある
このように、競技女子サイクリストによくある症状であるにもかかわらず、日本の女子選手(Figure 11)がこの症状について語ることはほとんどありません。日本における研究論文も見当たらない状況であり、海外と比較して医学的研究が著しく遅れていると言えます。

日本の女子選手のなかには外陰部に目立った異常がなく、鍛えた下半身に自信を持っている自転車選手(Figure 12)もいますが、サイクリスト外陰部症候群の症状を隠して悩んでいる選手もいると思われます(特にロードレーサー)。
サドルの不快感が原因で、多くの女子サイクリストが引退した可能性があります。引退理由がマンコの変形であったとしても言えないのが普通であり、ありきたりな理由で引退した女子選手はサイクリスト外陰部症候群を患って引退した可能性があります。

サイクリスト外陰部症候群の原因
サイクリスト外陰部症候群の原因は、基本的には外陰部のリンパ浮腫またはリンパ管の異常と言われていますが、最近ではその他の原因もあることが分かっています。
- 外陰部のリンパ管拡張または脂肪組織の増加に伴う皮膚線維性浮腫
- 外陰部の反復外傷、摩擦
- 「脚のリンパ管」異常に伴う二次性リンパ浮腫
サドル圧迫と繰り返す摩擦
サイクリストの外陰部の見た目が悪くなる症状は、サドルの過度な圧力と長時間の屈曲姿勢でのサイクリングによる会陰部の皮膚の繰り返しの炎症によって引き起こされると考えられます。
ショーツとサドルによって皮膚・粘膜がこすれ(Figure 13)、摩擦の繰り返しによって慢性の炎症や組織の反応性肥厚が起こります。

また、毛包炎、皮膚感染症、または外陰部血腫と併発することもあり、一度発症すると、他の症状が治まった後も陰唇肥大が持続する傾向があります。例えば、皮膚感染症が陰唇肥大の一因となった場合、皮膚感染症が治った後も、陰唇肥大は通常持続します。
血流・リンパ流の停滞
皮膚の炎症は皮膚のケアをすることによって、ある程度、組織の膨れ上がりを防ぐことは可能ですが、皮膚の下にある血管やリンパ管はクリームを塗るだけではケアできません。
サイクリスト外陰部症候群の主な原因はリンパ系の損傷と考えられています(Figure 14)。坐骨結節付近の腫れも同様のプロセスで発生することがあります。リンパ液や血液の循環障害が起こると、皮膚・粘膜が浮腫状に膨らみ(むくみ)ます。
- リンパ管が圧迫されると、体液の排出が止まり、持続的な腫れを引き起こします。
- 血管が圧迫されると、その部位の血液供給が不足し、虚血と呼ばれる状態になり、最終的には組織が壊死します。
そして、身体が長期間にわたってダメージを受けると修復するためにダメージを受けている部位と保護を必要とする組織の間に、体内に脂肪腫を形成します。より厚く、乾燥し、弾力性が低く、血液や体液の交換効率が低い新しい組織(基本的には瘢痕組織)を作り出そうとします。このプロセスが繰り返されることにより、最終的に外陰部が永久的に肥大し続けます。一度、肥大化が始まると治ることはありません。

治療
サイクリスト外陰部症候群はスポーツ界と医療界におけるタブーであったため、長い間知られていませんでした。女子の自転車競技が始まって以来、多くの女性サイクリストがサイクリスト外陰部症候群を患っていたと考えられますが、「女性器の痛みは我慢して当たり前」という認識から、医療機関に相談する人がいませんでした。
治療が遅れる原因
婦人科手術、性交痛、生理痛、出産など、女性は痛みを訴えても「痛みが正常である」と言われることが頻繁にあります。生理痛がひどくなりすぎてはいけないことを知らないために、不必要に生理痛に悩まされている女性もいます。本当は、「病的」な症状で直ちに受診が必要であるにもかかわらず、個人差として片付けられてしまうために治療が遅れてしまうのです。
女子サイクリストがサドルの痛みを訴えても、「当たり前のこと」「正常である」「女性であれば皆経験していること」などと無視されてしまいますが、決して正常ではありません。
また、女性が性機能について話す際に言葉遣いが曖昧で正確に症状を伝えられない問題もあります。「あそこが…」ではなく「右大陰唇が肥大している」「クリトリス亀頭をシャワーで刺激してもイカなくなった」など、具体的に言わなければ誰にも理解されません(Figure 15)。

誤診の可能性
サイクリスト外陰部症候群を知らない皮膚科の医師が、婦人科に紹介すべきところ、皮膚炎または感染症の一種と誤診して、クリームまたは抗生物質を処方してしまう可能性があります。
前述のように多くの場合はリンパ系の異常であり、皮膚科では治りません。
婦人科医による切除手術
マンコが多少変形していても、排泄、生理、性交等に影響がなければ手術を受けずに放置しても問題ありません。必ず手術しなければならないというわけではありません。自転車を止めればそれ以上悪化することはありません。
しかし、痛みを伴う圧迫感、擦れ、ねじれを引き起こす場合には、婦人科を受診し、外科的切除手術を検討したほうが良いです。ただし、初潮前の女児の場合は後述のCALMEの可能性があるので小児科が良いです。嚢胞化・慢性潰瘍などの合併症がある場合は医療介入が必要です(Figure 16、Figure 17)。
外科的切除によって外陰部の腫れに伴う不快感と美容上の悪影響の両方を軽減できます。ただし、手術後に正しい姿勢で乗らなければ再発することがあります。


最近の主な研究と症例
2010年代に入ってからようやくプロサイクリング界の女子アスリートたちが勇気を出して声を上げることによって詳細が明らかとなりました。女性の中には性器に深刻なダメージを受け、レースを続けるために手術をする選手もいます。
初めて報告されたのは2002年
「サイクリスト外陰部(Cyclist’s vulva)」の用語で初めて医学雑誌に報告されたのは2002年(平成14年)のことです。
この症状は、ベルギー・ブリュッセルのブルグマン大学病院(Brugmann University Hospital Bruxelles)准教授のスポーツ婦人科医リュック・バイエンス博士(Luc Baeyens、Figure 18)によって、 2002年にイギリスの医学雑誌で初めて報告されました(Figure 19)。

この研究では、この膨らみは自転車競技に関連する慢性的な傷害のうち女子のハイレベルサイクリング競技者に起こる症状であり、通常は永続的であると報告されています。これはリンパ浮腫であり、脚や骨盤におけるリンパの流れの遅延またはリンパ管異常を伴います。リンパ管経路のこのような変化は、会陰部の繰り返しの小さな感染、ハンドルバーにかがみ込みすぎる姿勢、そして特にサドルが性器に過度かつ長時間にわたって圧力をかけることによって引き起こされると述べています。

Bicyclist’s vulva: observational study(自転車女子の外陰部:観察研究)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC117232/
https://www.bmj.com/content/325/7356/138
Baeyens L, Vermeersch E, Bourgeois P. BMJ. 2002 Jul 20;325(7356):138-9.
2014年
皮膚科医、婦人科医、スポーツ医学の専門家からなるフランスとイギリスの医師団が、2014年10月に、サイクリストにおける片側外陰部の腫れの症例8例を報告しました。患者の平均年齢は45歳(18~68歳)で、8例中6人が腫れた部分の切除手術を受けました。うち2人はサイクリング時の不快感のため、4人は美容上の理由で切除されました。
患者が陰唇の腫れに気が付いてから1年~20年経過して受診していることから、受診するまでに長期間我慢していることが分かります。
- 症例1:48歳女性、サイクリング週200km、左大陰唇と両小陰唇の腫れ(7年)、不快感のため外科的切除(Figure 20-A)
- 症例2:38歳女性、サイクリング週250km x 20年、左陰唇大陰唇と陰核包皮の腫れ(3年)・毛包炎、美容上の理由で外科的切除
- 症例3:56歳女性、サイクリング週300-450km x 4年、右大陰唇の腫れ(1年)・苔癬化・毛包炎、患者が手術を拒否で症状継続中(Figure 20-B)
- 症例4:54歳女性、サイクリング週150km x 20年、右大陰唇の腫れ(6年)、美容上の理由で外科的切除
- 症例5:42歳女性、サイクリング週250km x 15年、右陰唇の腫れ(9年)・脱毛を伴う大陰唇の腫れ、外科的切除(Figure 21)
- 症例6:36歳女性、サイクリング週290km、右大陰唇の腫れ(1年)・脱毛、不快感のため外科的切除(Figure 22)
- 症例7:68歳女性、サイクリング週150km、左大陰唇の腫れ(20年)・毛包炎、インナーパンツ等のアドバイスのみで手術せず
- 症例8:18歳女性、サイクリング週250km、左大陰唇の腫れ(18年)、美容上の理由で外科的切除



Unilateral vulval swelling in cyclists: a report of 8 cases.(サイクリストにおける片側外陰部の腫れ:8症例の報告)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24832171/
Coutant-Foulc P, Lewis FM, Berville S, Janssen B, Guihard P, Renaut JJ, Plantier F, Calonje E, Moyal-Barracco M.J Low Genit Tract Dis. 2014 Oct;18(4):e84-9.
2021年(CALMEに類似した症例)
ベルギーでは2021年に、競技サイクリストではない37歳女性が、数ヶ月前から右大陰唇肥厚が進行したため、患者の美容上の希望により右大陰唇部分切除術を受けました(Figure 23)。手術から6ヶ月後、術部瘢痕は良好で再発も認められず、患者は大変満足したとのことです。

この報告によると、病変は良性で、組織学的にCALME(小児非対称性大陰唇肥大、Childhood Asymmetry Labium Majus Enlargement、Figure 24)に最も類似していたことから、本来は女児の疾病であるCALMEが大人に発生した症例であると報告されています。筋線維芽細胞の増殖が見られなかったため、サイクリスト症候群やサイクリスト結節かどうかは不明です。
しかし、患者本人によると「サイクリングを1日1時間未満に制限したら、病変の大きさが縮小した」とのことですから、サドルによる長時間の圧迫が関係している可能性があります。

Asymmetric labium majus enlargement in an adult: A case report(成人における非対称性大陰唇肥大:症例報告)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34824986/
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214911221000874
Prokurotaite E, Sirtaine N, Buxant F. Case Rep Womens Health. 2021 Nov 12;33:e00369.
Asymmetric Hypertrophy of the Labium Majus in a 9-Year-Old Girl(9歳女児における大陰唇の非対称性肥大)
https://www.actasdermo.org/en-asymmetric-hypertrophy-labium-majus-in-articulo-S1578219021001165
Reguero-del Cura L, Durán-Vian C, Navarro-Fernández I, López-Sundh AE, Gómez-Fernández C. Actas Dermo-Sifiliográficas (English Edition) March 2021;112:535–536.
予防・対策
多くの女子サイクリストにとって、この症状の予防は不可欠です。
マンポジを常に変えること
まずは、自転車乗車時の姿勢を見直します。同じ姿勢を続けるのでなく、定期的に立ちこぎするか、直立姿勢をとることで圧力を軽減できます。マンコの血行が悪くならないように、常にマンポジを定期的に変えることを意識します(Figure 25)。
また、サドルの位置・角度・高さを見直し、陰部への荷重を減らします。良いサドルを使っていても姿勢が悪ければ、陰部の圧迫は減りません。

サドル選び
サドルによる痛みは、間違ったサドルに乗っているか、自転車のフィッティングが間違っていることが原因である可能性があります(Figure 26)。極端なケースでは、合わないサドルで長距離を1回乗っただけで、永久的な損傷を引き起こす可能性があります。サドルで尻やマンコが痛くなるのは当たり前のことではありません。特に、骨のない部分に痛みがあるのは正常ではありません。

女性は一般的に坐骨(正確には坐骨結節間距離)が広く、サドルが狭すぎると軟部組織に圧力が集中する可能性があります。サイクリスト外陰部症候群の女性にとって、サドルの選択は非常に重要です。
圧迫を分散するカットアウトサドルやノーズ短めの女性用サドルを使うと痛みが軽減される可能性がありますが、必ずしも「女性用サドル」が本当に女性に合うとは限りません。女性の中には、シートの中央の凹みが小さすぎたり、比較的鋭いエッジがあったりすると、不快感を覚えることがよくあります。
パッド付きショーツ
通常の下着や服ではサドルとの間の摩擦、もしくは下着のクロッチ部分の縫い目が女性器に当たることによって、女性器に微小の傷がつきます。これを繰り返すことによって炎症が起きます。女性が通常のパンティを着用しながら長時間、自転車に乗るのは避けるべきです(Figure 27)。
最近は、女性の股間を保護するための自転車女子専用パッド付きショーツ(女性用サイクルパンツ)があります。女性用に調整され、女性器に合わせてわずかに波打った生地で作られたショーツを下着なしで着用するのがおすすめです。

皮膚のケア
女性特有の炎症を防ぐためには、自転車に乗る前にクリームを塗って摩擦を予防するとともに、自転車に乗った後には炎症を抑えるために冷湿布を当てると良いです。さらに女性器周辺の消毒とリンパドレナージの理学療法(リンパマッサージ)をすると、リンパ管障害を原因とするサイクリスト外陰部症候群を防ぐことができます。また、赤色の炎症や腫れがある場合は数日~数週間の休養が必要です。
なお、陰毛の処理については賛否両論あります。欧米人のように全部剃ったほうが良いとする見解もあれば、陰毛がクッションの役目を果たすので「適度に整えるだけで剃らないほうが良い」とする見解があります。強制的に引き抜く脱毛(ワックス脱毛など)をした直後に自転車に乗るのは、毛穴の炎症がひどくなる恐れがあるので避けたほうが良いです。