女性が自転車で股間(外陰部)を強打することは頻繁にありますが、他人に相談しにくいため放置して重症化してしまうことがあります。股間を強打する理由には、自転車の構造・女子特有の身体の特徴・乗り方のミスなど、いくつかの要因が関係しています。

自転車女子が股間をぶつける状況
自転車に不慣れな女性が急加速または急減速したり、段差やカーブでバランスを崩して転倒したときに、自分の自転車と女性器が強く衝突することがあります。他の人に言えないだけで自転車に乗ったことのある女性の多くが経験しています。
フレームに股間を強打する
自転車で走行中に前輪の急ブレーキや段差で急減速した場合、自転車は止まっても慣性の法則(運動の第1法則、Newton’s first law)により身体の移動速度は落ちないため、股間がサドルから滑って身体が前に飛び出し、自転車のフレームに強打することがあります(Figure 1)。特にスカートやツルツルした素材のズボンを着用しているときや、サドルに浅く腰掛けていたときは滑りやすくなります(Figure 2)。


自転車を降りる時、足を地面につくのが間に合わずフレームの上にまたがってしまい、股間をぶつけることがあります。特にスポーツタイプ(クロスバイクやロードバイク)の自転車はトップチューブが高めで、失敗すると強打しやすくなります。トップチューブには衝撃を逃すクッションがないため、痛みがダイレクトに来ます(Figure 3)。

サドルの先端に股間を強打する
サドルは太ももの縦の動きを邪魔しないように先端が細くなっており、サドルの先端と大陰唇の幅がほぼ同じであるため、サドルの先端がマンコに刺さることがあります。
- スポーツタイプ自転車のサドルの先端部の幅:3〜6cm程度
- 女性の大陰唇の幅:2〜5cm程度
段差で跳ねた後、勢いよくサドルに腰を下ろしたときに股間を強打することがあります。また、サドルから腰を浮かせて立ちこぎをしているときにバランスを崩してサドルに勢いよく落ちると、外陰部にダイレクトに衝撃がかかります(Figure 4)。

ハンドルに股間を強打する
自転車女子が股間にハンドルを強打することは可能性としては低いですが起こり得ます(Figure 5)。ただし、通常の自転車の構造や走行姿勢を考えると、頻繁に起こることではありません。
例えば、スピードを出している時や、前輪が段差や障害物に引っかかった時など、前につんのめるように転倒したとき、身体が前に飛び出してハンドルに股間をぶつける可能性があります。

女性特有の問題、リスク
女性特有の痛みと股間の形状
自転車と女性の股間はともに左右対称であり、女性器周辺と両脚は凹み形状であるため、フレームにまたがった状態で股間を強打する「またがり外傷(straddle injury)」が発生しやすくなります。
男性と違い睾丸(金玉、Golden Balls)がないため一見安全に見えますが、何も無いわけではなく、陰裂(マンコの割れ目)にサドルが当たると開口部(尿道口、膣口、肛門)が直接衝撃を受けます(Figure 6)。

特に陰核(クリトリス、Clitoris)を直撃した場合は神経断裂による強烈な痛みが発生します。
- 鋭い痛み:ぶつけた瞬間にズキッとした激痛が走る。
- 鈍痛やジンジン感:しばらくしてからうずくような痛みが続くことも。
- 吐き気を感じることも:神経が集中しているため、強打すると気分が悪くなる場合があります。
腫れと尿閉の危険性
自転車事故でハンドルやフレームに股間を強打することは男女を問わず発生します。しかし、女子の場合は外陰部は極めて柔らかい粘膜組織でできており、多くの神経や血管が集中しているため、少しの衝撃でも打撲による内出血、腫れ、打撲、痛み、しびれなどが出ることもあります。
強打するだけで容易に大きく腫れ上がり、開口部がふさがったときの排尿困難など日常生活への影響が大きいことが知られています。場合によっては、血腫(内出血のかたまり)や、皮膚の損傷、排尿時の痛みに発展することもあります。
- 打撲(内出血) 最も多い。赤く腫れたり、青アザになることも。数日で自然に治ることが多い。
- 擦過傷(すり傷) パンツやサドルとの摩擦で皮膚がすれる。特に夏場に多い。
- 裂傷(切り傷) 強くぶつけた拍子に皮膚が裂ける。まれに出血する。
- 血腫(腫れ)特に女性の場合、外陰部が腫れたり、圧痛が続くことがある。
予防と対処法
女子が股間を強打するのは普通のことです。恥ずかしいことではなく、ちゃんとした対策で予防できます。
衣服の影響、股間の保護
自転車に乗るときの服装はもちろん自由ですが、股間を守るのに適した服装でないと、痛みを感じやすくなります。スカートやパッドのない薄い素材のボトムスでは、衝撃を和らげるクッションが少なく、打ったときに直接響きやすくなります。
衝撃吸収性のあるパッド入りのインナーパンツ(サイクルパンツ)を使うのが最も良い対策ですが、柔らかめのサドルやパッド入りのクッションカバーの使用も有効です。
自転車が身体にあっていない
身体の計測をしっかりせずに、自転車を外見やかっこよさだけで選ぶとバランスを崩して事故につながります。正しい乗車姿勢ができるかを確認し、身長や体格に対して自転車が合っていない場合は直ちに調整します。
- フレーム形状が合っていない
- サドルの高さ、角度が合っていない
スポーツ用の固いサドル、細いレーサータイプのサドルだと局所的な圧迫や衝撃が起きやすくなります。
サドルの形状や固さが合わないものを無理やり使うと炎症を起こします。女性器と骨盤の形は個人差があるため、自分の身体に合うサドルに交換します。
股間をぶつけたときの対処法
自転車で股間をぶつけたときは、非常に強い痛みを伴うことがあり、油断せず慎重な対応が必要です。多くは自然に回復しますが、見た目に異常がなくても、違和感が長く続く場合は婦人科または泌尿器科へ受診します。
- 自転車から降りて、落ち着いて座るか横になる。
- すぐに冷却(アイスパックや濡れタオルなどで10~20分)
- 市販の鎮痛剤(例:イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)
- 様子を見る(腫れや痛みが数日で軽快するなら問題なし)数日で治らない・悪化する場合は婦人科で診察
股間強打による外陰部血腫の症例
症例1:20代女性
- 状況:20代女性が自転車走行中に転倒し、ハンドル部分が外陰部に直撃。
- 症状:85 mm × 40 mmの外陰部血腫と血管外漏出(Figure 7)。
- 手術:初期処置の後、経動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization、TAE)+小切開による手術で止血・血腫除去。翌日歩行可能となり、術後5日で退院。

TAE および小切開手術により治療した 非産科的巨大外陰部血腫の 1例(埼玉医科大学国際医療センター救命救急科)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjast/advpub/0/advpub_34.1_06/_pdf/-char/ja
日本外傷学会雑誌 34 (1), 22-26, 2020-01-20
症例2:18歳女性
- 状況:18歳女性、自転車のハンドルが膣に直接ぶつけた3日後に受診、激しい痛み、排尿不能
- 症状:右側の大陰唇がが膨張し、明らかな斑状出血と紫斑状の変色を呈していた。腫脹した右外陰部組織の下部は肉眼的に浮腫を呈し、一部は裂傷し出血。
- 手術:モルヒネの静脈内投与、尿道カテーテルを留置し、1Lの透明尿を排出。麻酔下で血腫除去手術。術後順調に回復し、排尿合併症はなく、3か月後、良好な状態が維持されていた。
Large labial haematoma needing surgical intervention(外科的介入を必要とする大きな唇血腫)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8578961/
https://casereports.bmj.com/content/bmjcr/14/11/e247066.full.pdf
Worrall AP, Gaughan E, Geary MP. BMJ Case Rep. 2021 Nov 9;14(11)
LOW BLOW Teen, 18, left with horror ‘childbirth-like’ injuries after bike handlebars smashed into her vagina(ローブロー18歳の少女、自転車のハンドルが膣に激突し、恐ろしい「出産のような」怪我を負う、the sun)
https://www.the-sun.com/health/4037598/teen-horror-childbirth-injuries-bike-handlebars-vagina/
症例3:29歳女性
- 状況:29歳女性、自転車事故によりまたがったまま股間をフレームに強打
- 症状:重篤な外陰部血腫。血液検査により不顕性出血に起因する進行性貧血が認められた
- 手術:血腫の除去と切開、止血手術
Serious hematoma of the vulva from a bicycle accident. A case report(自転車事故による外陰部の重篤な血腫。症例報告)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10986686
Virgili A, Bianchi A, Mollica G, Corazza M. The Journal of reproductive medicine Volume 2000 Aug;45(8):662-664.
症例4:22歳女性
- 状況:22歳女性。自転車事故後、激しい性器痛、排尿や座位が不可能なほどの炎症があり、過去3時間で炎症が著しく増大した。経口鎮痛剤や静脈内鎮痛剤で鎮痛が不十分であったため、婦人科救急外来に紹介された。
- 症状:右大陰唇に紫がかった色で表面が張った塊が長さ約12cm、幅約6cm認められ、触診で強い痛みを伴い、外陰部血腫が疑われた。尿道やその他の外陰部構造は、この塊によって変位していた。また、右下唇の浮腫を伴っていた(Figure 8-A)。
- 手術:術後の臨床経過は著しく改善し、経口鎮痛剤で疼痛をコントロールし、歩行と自発排尿を再開した。ドレーンは1週間後に抜去され、中等度の軟性外陰浮腫が持続する状態で退院。
- 経過:術後1か月後の検査で瘢痕は良好な状態であり、浮腫は完全に消失し、後遺症もなく、通常の身体活動と性行為を再開できた(Figure 8-B)。

Obstetric Versus Traumatic Vulvar Hematoma: Two Case Report and Review(産科性と外傷性の外陰部血腫:2症例報告とレビュー)
https://www.researchgate.net/publication/356166391_Obstetric_Versus_Traumatic_Vulvar_Hematoma_Two_Case_Report_and_Review
https://www.auctoresonline.org/article/obstetric-versus-traumatic-vulvar-hematoma-two-case-report-and-review
転倒による外陰部組織欠損の症例
外傷による外陰部組織⽋損は稀であり報告例もほとんどありません。
外陰部欠損:24歳女性
ケガによって外陰部を欠損した場合、2cmまでであれば傷を縫合すればよいですが、2cmを超える場合は美容上、機能上の理由から皮膚の再建手術(皮弁手術)を検討する必要があります。
- 状況:24歳女性、自転車から転倒。
- 症状:外陰部の検査では、感染性の分泌物と壊死像が認められ、左小陰唇(写真では右、えぐれて小陰唇の形が無くなる、Figure 9)を含む10cm×3cmの組織欠損。
- 手術:感染症予防として破傷風ワクチン投与。⼊院時には毎⽇、創傷洗浄と局所デブリードマンを実施し、入院7日目には創は清潔になった。入院8日目に、⽋損部を覆うために、⼤腿薄筋の下方から10×3cmの卵円形の浅⼤腿動脈穿通枝⽪弁を採取して、移植する再建手術を実施。術後5日目に問題なく退院。
- 経過:退院後1週間と1か月後の診察では感染や拒絶反応の兆候は見られなかった(Figure 10)。


The management of a bicycle trauma leading to vulvar tissue loss: A case report(
外陰部組織喪失を招いた⾃転⾞外傷:症例報告)
https://pelviperineology.org/pdf/07d42497-fb2b-47e0-be2f-8805fa940376/articles/PPj.2023.42.01.2022-7-1/Pelviperineology-42-25-En.pdf
Mehmet ALTIPARMAK, Ahmet Akin SIVASLIOGLU, Tolga HALICI. Pelviperineology 2023;42(1):25-27