女子アスリートが洋式トイレで正しく排尿(おしっこ)することは、競技パフォーマンスや健康を維持するうえで非常に重要です。トレーニングと同様に、排泄や生活習慣の見直しもコンディショニングの一環と考えられています。

女子の正しい排尿姿勢について
女子選手と排尿
女子アスリートは、洋式トイレにおける正しい排尿姿勢(posture during urination)の教育を受けていない選手が多く、正しい排尿ができないまま大人になっているケースもあります。
女子アスリートがトイレを正しく済ませることには、パフォーマンスや健康を支える重要なメリットがいくつもあります。最近では、アスリート支援の現場では理学療法士やウィメンズヘルスの専門家が、アスリートに対して骨盤底トレーニングや排尿習慣の指導を行う場面が増えています。

女子の放尿は「落下」である
女性は男性に比べて「尿をまっすぐ出しにくい」と思われがちですが、解剖学的に言えば誤りです。
女性の尿道は約3〜4cmの短い管で、男性に比べて直線的であり、比較的まっすぐな尿線が出やすいです。本来ならば、女性の方が尿の勢いが強く、尿流が一直線になるはずなのです。
女性は尿道が短いので、ペットボトルを逆さまにした時のように、尿自体の重力によって尿が勢いよく真下に向かって落下していくのが正しい排尿です(自由落下という)。

垂れるのは排尿姿勢の誤り
女子の排尿が正しければ、ユニフォームやウェア、下着、お尻、太ももなどが汚れることはありません。
排尿姿勢が正しければ、トイレットペーパーで拭くときも小陰唇を軽く押さえるだけで済みます。大陰唇より外側に尿が垂れている場合は排尿姿勢が誤っています。
- 太ももや下着が濡れる、垂れてしまう
- 尿が出にくい、残尿感がある、数滴こぼれる
- 尿線が二股になったり
- 前後に垂れる、前後左右に飛び散る

洋式トイレにおける女子の正しい排尿姿勢
1.大腿を肩幅に開く(陰唇を開く)
まず、排尿する時に大腿(太もも)を広げます。脚を閉じたまま排尿をしてはいけません。

陰唇を開くことを意識する
女子の尿道口は小陰唇の中に隠れており、それが原因で正しく排尿ができません。排尿する時に陰唇を開いた状態にすることが必要です。

脚の幅の目安は、肩幅〜それ以上(膝と膝の間に握りこぶし2つ分以上)ですが、陰唇が開いていない場合はさらに股を大きく開いてもかまいません。可能ならばズボンをおろして膝がくっつかないようにしましょう。

小陰唇の見え方と脚の位置
小陰唇の見え方は、脚の開き方によって異なります(個人差)。多くの女子は脚を広げるだけで、会陰部が開き、尿道口が露出します。

- 左:脚を閉じた状態では、小陰唇は大陰唇にほぼ完全に覆われています。
- 中央:脚を少し開いた状態では、小陰唇が部分的に見える程度です。
- 右:脚を完全に開いた状態では、小陰唇とクリトリスの包皮が完全に見えます。
大腿(太もも)を大きく開く理由
足を閉じたままだと、尿道周囲の皮膚や粘膜が尿の流れを邪魔して、尿が乱れたり、斜めに飛んだりします。開脚によって尿の通り道(尿道)をまっすぐ確保でき、尿線がまっすぐ前方〜下方に向かい、飛び散りやすさを減らすことができます。
また、太ももを開くことで、骨盤底筋(特に尿道括約筋や膣周囲の筋肉)が無理なく緩みます。閉じたままだと、筋肉が無意識に緊張し、尿が出にくくなったり、残尿の原因になります。

開脚しても陰唇が開かない場合
体形によっては、大腿を大きく開いても陰唇が開かない人がいます。その場合は、お尻の肉を外に寄せることによって陰唇が開く場合があります。また、直接、手で陰唇を開いてもかまいません。
正しい開脚を確認する方法
尿道口がしっかり露出した状態で排尿をすると、ホースから出てくる水のように、膀胱から出た尿が勢いよく一直線に排出される音がします。
水面に落ちる尿の音をよく聴くと、尿流がストレートに便器の水面に落ちているか、合わさった陰唇の間からしょぼしょぼ垂れているかがわかります。陰唇に当たっている場合は開脚が不十分です。
2.前傾姿勢(お尻を軽く突き出す)
お尻を後ろに突き出すように(腰をそらすイメージで)便座に深く座り、上半身を少し前に倒します。

お尻を後ろに突き出す理由
女子が排尿するときにお尻を後ろに軽く突き出して、骨盤をやや前傾させることで、膀胱から尿道、尿道口のラインが直線に近づき、尿道の通り道がまっすぐになりやすくなります。結果として、尿がスムーズに出やすくなり、残尿が減ります。特に骨盤が後傾していたり、背中を丸める姿勢では尿道が曲がりやすく、尿が出にくくなります。
お尻を突き出すと骨盤底の筋肉(肛門周囲や膣口周囲)が自然に緩み、腹圧を使わずに自然な力で尿を出すことができます。骨盤底筋がリラックスしやすく、尿漏れや骨盤臓器脱の予防にもつながります。

前傾の角度
お尻を後ろに少し突き出すように骨盤を立て、上半身を軽く前傾します。目安は15〜30度です。背筋を伸ばしたまま、上体を少し前に倒すのが理想です。
上体を大きく前に倒したり、極端にお尻を突き出しすぎると、逆に筋肉が緊張することがあるため「自然に軽く突き出す」程度がベスト。

正しい前傾を確認する方法
脚を広げてしっかり座ることで、骨盤の安定性が高まり、自然に正しい前傾姿勢がとりやすくなります。お尻側に尿が垂れる場合は前傾の角度が足りない証拠です。角度が正しければ前後に垂れることはありません。
尿道をまっすぐにすることが大事です。腹圧で「尿を押し出す」のではなく、「真下に向かって尿が落下する」ことを意識します。正しい姿勢であれば力を抜くだけで尿が勝手に落下します。

残尿を押し出す必要はない
男性の場合は尿道が長いので腹圧で残尿を押し出す必要がありますが、女性の場合は正しい排尿姿勢であれば力を抜くだけで膀胱が空になります。尿が残っているような気がするのであれば排尿姿勢が誤っているといえます。

3.会陰部の衣類をよけてリラックス
下着やウェアが尿線の出口にかからないように下げて、尿が落ち切るのをリラックスして待ちます。陰毛が長い場合などで尿線が二股になったり、飛び散ることもありますので、尿道口付近の陰毛はできれば処理しておいた方が清潔です。
排尿後、小陰唇付近をトイレットペーパーで押さえて水分を吸収させます(紙でこするのではなく吸収を待つ)。急いで立ち上がると、最後の数滴が太ももに垂れることがあるので、一呼吸おいてから立つようにします。

女子アスリートがトイレを正しく済ませるメリット
女子アスリートは正しい排尿姿勢をマスターして、一般女性の模範とならなければなりません。
骨盤底筋の負担軽減と尿漏れ予防
正しい姿勢・自然な排尿により、骨盤底筋がリラックスし、筋肉の過緊張や負担が減ります。長期的には、ジャンプ・ランなどによる腹圧性尿失禁(特に10代後半〜成人女性に多い)のリスクを下げます。
排尿時にいきむ、姿勢が悪い、途中で止めるなどの習慣は、骨盤底筋群に負担をかけ、尿漏れ(腹圧性尿失禁)のリスクを高めます。特に跳躍・ランニングなどを伴うスポーツでは、骨盤底筋が弱っていると、ジャンプやダッシュ時に尿漏れが発生する可能性があります。
トレーナーや理学療法士と連携して、骨盤底筋トレーニングを併用すると効果的です。

膀胱炎や尿路感染症の予防
我慢や中途半端な排尿を避け、膀胱をしっかり空にすることで、細菌の繁殖リスクを低減します。尿が膣内に逆流する危険性もあります。
排尿を我慢する習慣や、排尿を急ぐことで膀胱が十分に空にならないと、細菌が繁殖しやすくなり、膀胱炎や尿路感染症のリスクが高まります。感染症はトレーニングの継続に支障をきたすだけでなく、体調不良やパフォーマンス低下の要因になります。
体幹・骨盤のアライメントが整う
排尿時に安定した姿勢を保つことで、骨盤や腰椎の筋肉バランスが整いやすくなり、ケガの予防や運動時のフォームの維持にもつながります。
トイレでの姿勢(極端な前かがみ、猫背の姿勢)が悪いと、骨盤周囲の筋肉や関節に悪影響を及ぼし、体幹や下肢の筋バランスが崩れることがあります。正しい姿勢で排尿することは、身体全体のアライメント維持にも貢献します。
排尿習慣とホルモンバランス
トイレのリズムが整うと、自律神経が安定し、睡眠・ホルモンバランス・消化機能にも良い影響が出ます。月経周期やPMSへの対策としても有効です。
頻繁な我慢や夜間頻尿は、睡眠の質を下げ、ホルモンバランスの乱れや疲労蓄積につながります。特に月経周期と関係するホルモンバランスは、女子アスリートのパフォーマンスに影響を与えるため、排尿習慣も重要です。
