女性が事故などで外陰部(おまた)を切る・裂傷を負うことはあります。転倒・接触・スライディング等のスポーツ活動や事故によって、裂傷や打撲を受けることがあります。血流が多い部位のため軽度の裂傷でも出血が多いことがあります。重度の場合、膣や会陰に達する深い傷となり、縫合処置が必要なこともあります。

開脚外傷、またがり外傷
女性が、硬い物体にまたがって股間を強打することを「開脚外傷」または「またがり外傷(straggle injury)」といいます。例えば、椅子、階段、遊具、浴槽、自転車などへの転倒が、開脚外傷の原因となることがあります。強打して腫れると、数週間から数ヶ月間、座ったり排尿したりする際に痛みを感じることがあります。
外陰部裂傷
外陰部裂傷(れっしょう、vulvar laceration)は、外陰部を打撲して腫れるだけでなく、外陰部から肛門にかけての皮膚や粘膜が裂ける外傷です。外陰部は皮膚・粘膜・筋膜・筋肉から成り、比較的柔らかく、強い外力に弱い構造です。裂傷によって血腫ができることもあります。
- 膣裂傷(ちつれっしょう):膣の壁や粘膜が裂ける、出産時は会陰まで裂けることがある
- 陰核裂傷(いんかくれっしょう):クリトリス、尿道口付近に傷ができる
- 陰唇裂傷(いんしんれっしょう):大陰唇、小陰唇に切れ目が入る
非産科的外傷(出産とは無関係な外傷)の場合、裂傷が膣内まで及ぶことはほとんどなく、外陰部の皮膚表面の傷、出血、あざが見られます。圧迫によって止血すれば基本的に縫合手術不要ですが、出血がひどい場合や傷が大きすぎて自然に治癒しない場合は縫合手術が必要となる場合があります。
応急処置
外陰部を水で優しくすすぎ清潔に保ちます(Figure 1)。出血があるときは圧迫して止血します。
痛みや腫れを和らげるために布で包んだ保冷剤やアイスパックを外陰部に当てます。痛みを和らげるために鎮痛剤と軟膏が効果的です。特に排尿時の痛みを軽減するには、排尿前に外陰部に軟膏を塗ると良いです。

性交経験済みの女性の場合
外陰部裂傷の重症度
膣による性交を経験済みの女性(非処女)の場合、処女の場合(後述)とは異なり、すでに処女膜が破れているので処女膜の損傷を考慮する必要がありません。スポーツで膣内に損傷が及ぶことは滅多にありません。
外陰部裂傷のレベルは、出産時の会陰裂傷・会陰切開のレベル(Figure 2)に準じて、軽度、中等度、重度の3段階に分けられます。
- 軽度:表皮の浅い裂傷(会陰裂傷1度相当)
- 中等度:皮下の裂傷(会陰裂傷2度相当)
- 重度:膣や肛門へ達する深い裂傷(会陰裂傷3度以上相当)

アメリカでは「外陰部損傷スケール(Vulva injury scale)」によって5段階に分けています(Figure 3)。グレード2が軽度の裂傷、グレード4以上が重症です。
- グレード1:打撲または血腫
- グレード2:表面的な裂傷(皮膚のみ)
- グレード3:深い裂傷(脂肪または筋肉まで)
- グレード4:皮膚、脂肪または筋肉の剥離
- グレード5:隣接臓器(肛門、直腸、尿道、膀胱)の損傷

保存的治療(軽症)
表皮が切れた場合は、荒れた唇が切れたのと同様で手術は不要です(保存的治療、Figure 4)。出血が止まるまでは圧迫します。冷却して腫れを抑え、治るまで激しい運動を控えます。病院に行く必要はないと思われますが、ひどくなるようであれば診察を受けるべきです。
股間は不衛生になりがちなので、シャワー、排尿時は洗浄し、常に清潔を保つようにします。
- アイスパックで冷却(タオル越し)
- 出血がある場合は清潔なガーゼで軽く圧迫
- 安静にする
- 消毒、軟膏塗布
- 鎮痛薬(NSAIDs)

外科的治療(中〜重症)
出血が止まらずナプキンを頻繁に取り替えるレベルの場合、ざっくり切れています。直ちに婦人科、産婦人科(女児は小児科)へ受診します。
- 出血がひどい:血がポタポタ落ちる、ナプキンがすぐに真っ赤になる
- 歩行困難:痛みで立てない、太ももを閉じられない、排尿できない、鎮痛剤が効かない
- ショック症状:発熱、悪寒、めまい、ふらつき、失神
産科の医師は出産で会陰の縫合に慣れています。局所麻酔下で縫合をし、感染予防の抗生物質を処方されます。
直腸・肛門や尿道損傷があれば入院して専門科(肛門科・泌尿器科)でも診察を受ける必要があります。重度の場合は、股間への衝撃が相当大きかったものと思われるので、骨盤、血管、臓器に異常がないかなどのチェックも徹底的に行われます。全身麻酔での手術の可能性もあります。
復帰の目安
スポーツ選手の場合、患部が治るまでは脚を動かす運動を控えます。歩行や排尿に痛みがなく、腫れや出血がなくなれば復帰できます。縫合した時は縫合部が落ち着くまで1〜2週間程度かかります。
女児、処女の場合
⼥児および若年⼥性の性器損傷は、性器以外の部位にも損傷がある場合(⾃動⾞事故など)と、性器単独の損傷として発⽣する場合(股裂け損傷など)があります。外陰部の裂傷からの出血は大人より多量となる傾向があります。
検査を円滑に進める方法
外陰部血腫、裂傷、または膣出血などの損傷がある場合、特に子供が適切な検査に協力したがらない、または協力できない場合は、損傷の全容を判断するのが難しいことがあります。検査自体を円滑にするために、女児の場合はまずは精神的ショックを緩和し落ち着かせることが大事です。そして、排尿できるかどうかを必ず確認します。
女児の場合、大人の女性と比較して、外見上よりも重症である可能性があります。外見では裂傷が軽微にもかかわらず肛門括約筋が完全に断裂していた症例が報告されています(Figure 5)。

それは、成人女性の大陰唇は、豊富な血管と神経終末を外傷から保護するための脂肪沈着物質が蓄積しているのに対し、小児期および思春期の女子にはこの保護構造が無いからです(Figure 6)。そのため、治療の前に全身麻酔下での診察を行う必要になる場合があります。

Genital Trauma in the Pediatric and Adolescent Female(小児および思春期女性における性器外傷)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0889854509000047
Diane F. Merritt MD
Obstetrics and Gynecology Clinics of North America Volume 36, Issue 1, March 2009, Pages 85-98
性的虐待を否定する証拠を持参したほうがよい
事故による外傷は、性的暴行に伴う外傷と似ている場合があります。医師は外陰部外傷の診察の際には、必ず性的暴行の可能性を確認します。それは、決して悪意ではなく、医師は性的暴行の有無を確認する法的義務があるからです(児童虐待防止法第6条、児童福祉法第25条)。
医療機関に受診する場合は、外陰部裂傷の原因となった硬い物体(ぶつけた物)または状況が分かる写真を撮って持参したほうが良いです。
外陰部裂傷のグレード
女児または性交未経験の処女でスポーツ等によって処女膜(Hymen、Figure 7)。が破れた経験がない女子の場合、外傷による処女膜損傷も考慮する必要があります。

西暦2000年以降、さまざまなグレード分けが提唱されていて現在も標準化されていません。2024年の時点では6段階に分ける重症度分類システムがあります(Novel Grading System、Figure 8)。

- グレード1:裂傷を伴わない拡大しない血腫または挫傷
- グレード2:(A)擦り傷、(B)1cm未満の浅い陰唇または外陰部裂傷
- グレード3:合計1-3cmの浅い陰唇または外陰部の裂傷
- グレード4:(A)処女膜裂傷、(B)3cm超の浅い陰唇または外陰部の裂傷
- グレード5:(A)深い陰唇裂傷、(B)陰唇の切断、剥離、(C)膣裂傷、(D)急性拡大血腫
- グレード6:肛門括約筋、直腸粘膜、尿道の裂傷
Characterization of Pediatric Female Genital Trauma Using a Novel Grading System and Recommendations for Management(小児女性性器外傷の新しい重症度分類システムを用いた特徴づけと治療の推奨事項)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002234682400366X
https://www.jpedsurg.org/article/S0022-3468(24)00366-X/fulltext
Katherine Bergus, Abigail Frooman, Sydney Castellanos, Rajan Thakkar, Kate McCracken, Chelsea Kebodeaux, Geri Hewitt, Dana Schwartz, Y. Frances Fei
Journal of Pediatric Surgery Volume 59, Issue 10, October 2024, 161599
グレードごとの治療
1cm未満の裂傷(グレード2)で止血している場合は縫合修復を必要とすることはほとんどなく、多くの場合、保存的治療が可能です(Figure 9)。病院に行く必要はないと思われますが、ひどくなるようであれば診察を受けるべきです。

出血が止まらない場合は、「かかりつけの小児科」または救急外来に行って診察を受けます(婦人科医師の診察が必要な場合はそこから紹介される)。3cm未満の裂傷で出血が少なければ、救急外来のベッドサイドでの局所麻酔による縫合で終わります(Figure 10)。
- 軽度(保存的治療):1cm未満の裂傷(グレード2)で止血している場合
- 中等度(局所麻酔縫合):3cm未満の場合(複数の裂傷がある場合は合計で3cm未満、グレード4)で出血が少ない場合
- 重度(全身麻酔):出血が多い場合、グレード5、6
裂傷の深さによって治癒に必要な時間は異なり、浅い裂傷や擦過傷は2~3日で治癒しますが、深い会陰裂傷は最大20日程度かかります。血腫の場合は裂傷よりも時間がかかり2週間~4週間程度かかることがありますが、早急に手術をすればより早く治ります。

女性器のケガは性の問題ではない
外見上は軽症でも、女性器が傷ついたことによる羞恥心や精神的なショックによって治療が遅れることがあります。放置すれば深刻な病気につながることがあります。
女性器はもともとダメージを受ける前提の柔らかい組織・構造なので、皮膚のトラブルがあるのは当たり前です。女性であれば「陰部が傷ついて修復する」のは普段から無意識のうちに起こっているのです(自転車に乗る、下着が擦れる、性交するだけで擦過傷ができている)。その代わりに、適切なケアをすれば修復も早くなります。