膣圧は、女性の健康にとって医学的・性的に重要な指標であり、古代から女性は膣をトレーニングしてきました。膣圧に関する技法、膣トレの歴史は、現代の医学的な測定だけでなく、古代の文化・医学・宗教・性愛思想にも深く関係しています。

膣圧の基本
膣圧(ちつあつ、vaginal pressure)とは、女性の膣内の圧力、特に骨盤底筋(膣周囲の筋肉)による収縮によって生じる内圧です。

医学的には、骨盤底筋は骨盤内臓器(膀胱・子宮・直腸)を支える力であり、尿漏れ(腹圧性尿失禁)や膣脱(子宮脱)予防・治療に関係しています。性的には、膣圧によって男性のペニス(Penis或いはTinko)が締め付けられることにより、女性自身やパートナーの性的快感を高めることに寄与しています。
膣圧は3か月程度の簡単なトレーニングで向上可能であるため、膣圧が強い女性は健康に対する意識が高いと言えます。
古代~中世の膣トレ
女性は紀元前の時代からスポーツや運動を日常的に行っていたことが知られています。
そして、世界各地(特に東洋、インド、アラブ)の古代医術や性技法では、性交時の快感や締まりを重視する文化があり、女性が膣を締める訓練を行っていたとする記録があります。古代の女性は「膣を締める力」を健康法の一環として鍛えていました。

古代インド
カーマ・スートラ
4世紀から5世紀にかけて成立した古代インドの性愛論書カーマ・スートラ(Kama Sutra)では、女性が膣を収縮させて快楽を高める技法が紹介されています。
一部の女性は、膣(ヨーニ)を意識的に締めたり、動かしたりして、膣の力だけで男性のペニスを握るように扱うことができると記述されています。このような膣の締め付け技をヴァジカラン(vajikaran)と呼び、性的満足を深める技法の一つとされました。カーマ・スートラにおける性愛技芸のなかには、ヴィディヤ(vidya)と言われる膣のコントロール技法があります。
- 膣(ヨーニ)で男性器を掴む
- ペニスのピストン運動に合わせて膣の内側で収縮を繰り返す
「膣でペニスを握る」ことができる女性は、性交中に男性に快感を与えることができる性愛の達人、優れた愛人として評価されました。

ヨガ、タントラ
伝統的なヨーガやタントラでは、エネルギーのコントロールの手段として膣周囲の筋肉を鍛えていました。
ムーラバンダ(Mula Bandha)は、ヨーガとタントラにおける重要なエネルギー制御法の一つであり、会陰部を締め付けることでエネルギーをコントロールするテクニックです。この技法は現代のヨガでも行われています。


- 肛門・膣・会陰部の筋肉を内側・上方向に強く引き締める
- できるだけ腹やお尻の力を抜いて、会陰部だけに意識を集中
- 締めた状態で5〜10秒キープ(さらに長い時間継続しても良い)、ゆっくりリリース、5〜10回繰り返す
サンスクリット語でムーラ(根)=会陰部、骨盤底の意味であり、バンダ(締める)=ロックする技法のことです。エネルギーの逆流防止、第1チャクラの活性化、集中力の向上により、身体的・精神的・霊的なエネルギーを上昇させるための技法です。
骨盤底筋群を意識的に収縮させることで、体内のエネルギーを閉じ込め、安定させ、活性化すると考えられています。この技法は膣(女性の場合)や骨盤底筋全体の鍛錬に深く関わっており、すべての女性にとって非常に有益な練習です。

古代中国の気功
古代中国の道教の気功(内丹術・房中術)において、膣周辺の筋肉群を強化し、引き締める様々な実践法を開発していました。
女性が膣を締める技法は単なる性技ではなく、身体・精神・エネルギーの統一を目指す修行法です。これは重要な修練とされ、精(生命力)を漏らさず、内に転化させるための手段のひとつでした。
閉陰功
気功では下腹部のことを「下丹田(Lower Dantian)」と呼び、体内の気を下腹部に集める技法があります。
閉陰功(へいいんこう)は、会陰(膣と肛門の間)を締めることで陰門(=膣)を閉じ、精気を外に漏らさないようにする基礎的な練習です。
- 呼吸に合わせて膣・肛門をゆっくり締め、ゆっくり緩める。
- 吸うときに締め、吐くときに緩める(または逆の流派もあり)。
- この動作を何十回も繰り返す。

房中術
道教では「房中術(性修練)」により、女性の膣締め(縮陰功)を精気を高める修行の一環として伝承され、長寿・健康術とされました。性交を性そのものではなく、気(精気)を通じて陰陽バランスを整える行為ととらえ、快楽そのものを目的とせず節度を重視しました。
- 女性が膣の筋肉で男性器を締める力を制御する
- 性交中も、呼吸、会陰締め、膣の動きで気の流れをコントロールする
- 性的快感の絶頂(オーガズム、Orgasm)に達しても精気を放出せず、吸収・内化させる

中世のアラブ医学(イスラム圏)
アラブ・イスラーム医学(ユナニ医学とも呼ばれる伝統医学体系)でも「女性が花弁のように膣を動かす」といった表現があり、女性の生殖器(特に膣)の締め付け・収縮を使った健康法は存在しています。これは性機能だけでなく、全身の健康・若さ・体内バランスの維持に不可欠とされました。古代イスラーム医学では、膣や子宮の動きは精神的健康と性的自律の一部として、気分・精神状態と深く関係しているとされました。単に身体的健康法ではなく、自律神経や情緒の調整にも良いとされました。
ペルシャの哲学者・医者のイブン・スィーナー(アヴィセンナ、Avicenna)の医学典範(The Canon of Medicine)に、膣を締めることは、快楽、締まりの良さ(tightness)として言及され、香料やハーブによる締め付けも紹介されています。多くのアラブ医学書では、産後ケアにおいて膣の締め直しが推奨されました。

イスラム教の聖典コーランの記述に則って預言者ムハンマドが実践したとされる治療法や、彼が教えたとされる医学的な教えである預言者の医学は、「膣を動かすことで、憂鬱を解き、血と喜びを巡らせる」と述べています。
中世までの西洋医学
ルネサンス期以降(16世紀〜)の西洋医学では解剖学が発展し、女性器の解剖図が作成されました。しかし、衰弱した遺体を解剖すると、膣の周りの筋肉は萎縮し、ほとんど機能していないように見えます。そのため、解剖学者や多くの医師によってその機能的重要性が見過ごされてきました。女性器の構造や位置の研究が中心で、女性器の締め付けについての研究は全くありませんでした。
18〜19世紀になってようやく、医学書に膣の緩みや子宮脱(prolapse)について記述されるようになり、「子宮を支える筋肉が弱ると、膣が開いて内臓が下がる」という表現が見られます。つまり「膣の支持力=筋肉の力=膣圧」といった漠然とした認識は存在していました。

20世紀以降の膣圧計測の進化
アーノルド・ケーゲル博士
膣圧の測定とその理解は、20世紀中盤以降の骨盤底筋研究・女性の健康医学の発展と共に進化してきました。
アメリカの婦人科医で、南カリフォルニア大学医学部(現・南カリフォルニア大学Keck医学部)婦人科助教授のアーノルド・ヘンリー・ケーゲル医学博士(Arnold Henry Kegel、1894年2月21日 – 1972年3月1日)は1940年代から1950年代にかけて、膀胱不全(尿失禁)に苦しむ女性の骨盤底筋のリハビリテーションの研究をしていました。

ケーゲル博士は、骨盤底筋群が弱くなると、尿失禁(排尿を部分的または完全にコントロールできなくなる)や骨盤臓器脱(骨盤底が骨盤領域の臓器を適切に支えきれず、臓器が所定の位置から外れてしまう)などの障害を引き起こす可能性があることに気づきました。
1948年(昭和23年)に初めて研究論文「外科的ではない性器弛緩治療;解剖学的・機能的構造の修復を補助する会陰計の使用」を発表し、膣圧を測定できる会陰計(ペリノメーター、perineometer)と出産後や尿失禁治療の一環として膣圧トレーニング(ケーゲル体操)を開発しました。
視覚的なコントロール下で努力を繰り返し、その進歩を確認する機会が与えられなければ、患者は意欲を失いがちです。こうした困難を克服するためのシンプルで直接的かつ確実な方法が、会陰計です。


また、1952年(昭和27年)発表の論文「恥骨尾骨筋の性機能」では、恥骨尾骨筋が性機能に果たす役割の重要性を特定しました。性機能とは、性的に興奮し、オーガズムを経験する能力のことです。
ケーゲルの研究は、新しい理学療法の分野である骨盤底理学療法(PFPT)の創設に貢献しました。
The nonsurgical treatment of genital relaxation; use of the perineometer as an aid in restoring anatomic and functional structure(外科的ではない性器弛緩治療;解剖学的・機能的構造の修復を補助する会陰計の使用)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18860416/
A H KEGEL. Annals of western medicine and surgery 1948 May;2(5):213-216.
Sexual functions of the pubococcygeus muscle(恥骨尾骨筋の性機能)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13006131/
A H KEGEL. Western journal of surgery, obstetrics, and gynecology. 1952 Oct;60(10):521-524.
1970年代
ケーゲルが著書の中で述べた骨盤底筋体操は、現在ではケーゲル体操(Kegel exercises)と呼ばれており、ケーゲルが実際に患者に指示した体操に類似しています。ケーゲル自身はこの体操を「ケーゲル体操」と呼んだわけではなく、誰がこの名前を付けたのかも分かっていません。しかし、1961年までに子宮脱を研究する研究者たちはこの体操をケーゲル体操と呼ぶようになり、それ以来この名称が使われ続けています。
1950年代〜70年代には、膣圧計測機器で記録する方法が、婦人科、泌尿器科、リハビリ科で「ケーゲル療法」として広く採用され、特に尿失禁や膣脱の治療に応用されました。1979年の研究では、78人の白人女性と64人の黒人女性を対象に平均膣圧を測定し、休息時5mmHg、収縮時15mmHgと報告されています。

1990年代以降
現在でも性機能の改善にもケーゲル体操を推奨されています。2010年(平成22年)のLowensteinらの研究では、骨盤底筋の収縮の強さが女性のオーガズム反応の強さに直接影響を与えることが説明されています。
Can stronger pelvic muscle floor improve sexual function?(骨盤底筋を強化すると性機能が改善されるか)
https://link.springer.com/article/10.1007/s00192-009-1077-5
Lowenstein, L., Gruenwald, I., Gartman, I. et al. International Urogynecology Journal 21, 553–556 (2010).
1990年代以降、膣圧に関する研究は大きく発展し、ケーゲル博士の開発した会陰計を基にして骨盤底筋の強さを研究する新しい技術を開発しています。
- Modified Oxford Scaleと膣圧の相関を評価(Laycock & Jerwood, 1993)
- 骨盤底筋トレーニング後に膣圧が有意に上昇することを確認(Bø et al., 1999)
- 骨盤底筋訓練によってオーガズムの頻度や強度が向上する可能性(Glazer et al., 1999)
- 性的満足度が高い女性ほど、膣圧や骨盤底筋の筋力が高い傾向(Laine et al., 2011)
最近では、スマートフォン連動型のトレーニングデバイスも登場し、研究にも使われ始めています。
ケーゲルチェッカー
TENGAの社内ベンチャーである株式会社TENGAヘルスケア(東京都中央区)は、2023年(令和5年)に、K-Gel CHECKER(ケーゲルチェッカー)を発売を開始して人気を博しています。

K-Gel CHECKERは、膣にV字状の器具を挿入するだけで、骨盤底筋の筋力を気軽に測定できる器具です。



