女子用陸上ショーツにおいてクロッチ部分が重要な理由は、解剖学的構造と運動中の快適性・衛生・安全性に密接に関係しているからです。

クロッチ位置の保持
クロッチ(crotch)とは、ショーツの股の部分(前と後ろの生地をつなぐ下部)にあたり、外陰部(デリケートゾーン)を覆う重要な部分です。

クロッチには、通気性や吸湿性がある裏地の布(crotch lining)がついている場合もあります。
女子選手にとって外陰部は特に保護すべき部位であり、女子用陸上ショーツにはクロッチ部分が外陰部からズレないように、クロッチ位置(crotch area)をしっかりキープするための工夫がされています。

激しい運動中のズレを防ぐ
女子陸上選手は男子と比較して股の部分が柔らかく、激しい運動によって大きく変形します。そのためクロッチ部分の変形に対応するショーツを履かなければなりません。
外陰部の露出
陸上競技は、スタートダッシュ・ジャンプ・着地・ターンなど、脚の動きが大きく激しいため、ショーツが体にしっかりフィットしていないと、クロッチ部分が浮いて外陰部が見えることがあります。
クロッチの位置が安定していれば、常に正しい位置でカバーされ、安心して動作に集中できます。

集中力の低下
陸上や体操、ダンスなど動きの大きいスポーツでは、クロッチが前後左右にずれると非常に不快です。体勢を変えるたびにショーツがずれてしまうと、無意識のうちに気になって集中が削がれます。
特にクラウチングスタートなど股関節を深く屈曲する動きでは、クロッチの安定性がないとフォームに悪影響が出ます。

シルエットを美しく保つ
女子陸上ショーツは、競技パフォーマンスだけでなく、身体のラインをすっきり見せるためのシルエットも重視されます。クロッチがずれると、見た目の乱れやウェアの食い込み・たるみが生じ、美観を損ないます。
女子競技用ショーツでは外観のシルエットやラインも見られるため、「ずれ」が起きると不格好に見えたり不快感を与える可能性もあります。

女性器(外陰部)の保護
女性は解剖学的に外陰部の構造(大陰唇、小陰唇、陰核など)が複雑で繊細です。ショーツのクロッチ部分で外陰部を常に覆う必要があります。
外陰部が複雑で繊細
女子の外陰部は皮膚が柔らかく神経が集中し、敏感で性的に感じやすい構造になっているため、ショーツのクロッチ部分が正しい位置にないと、直接刺激を受けやすくなります。
また、外陰部には膣口、尿道口、肛門のほか、尿道口の付近にスキーン腺、膣口の付近にバルトリン腺の分泌液の出口が存在するなど、男性に比べて開口部が多い(多数の穴が存在する)ため、クロッチ部分がズレると陸上競技中の摩擦や衝撃で炎症を起こすリスクがあります。
そのため、クロッチは前後・左右・上下の動きに耐えうる安定性が求められる設計になっています。

衛生面のリスク回避
クロッチは、外陰部から分泌される汗、月経時の経血その他の分泌物を受け止める役割があります。ショーツのクロッチ部分が正しい位置にないと、皮膚や粘膜がこすれ、蒸れやかぶれ、炎症、雑菌繁殖、痛みの原因にもなります。

外陰部の通気性
外陰部の通気性は、陸上女子にとってとても重要です。ここは汗をかきやすく蒸れやすいため、不快感や皮膚トラブルの原因になりやすい部分です。女子の外陰部はクロッチ生地の中に密閉されやすく、汗や熱がこもりやすい場所であり、蒸れや湿気が続くと、かゆみ・かぶれ・菌や真菌の感染リスクが高まります。

クロッチ部分の設計上の工夫
女性用陸上ショーツのクロッチ部分は、競技中の快適性・衛生面・体型フィット・動きへの追従性の全てをバランスよく満たすために、縫製・素材・形状の各面で高度な工夫が施されています。細かい設計や縫製技術によりクロッチ位置を固定しています。
ハイレグ設計
短距離や競技用ショーツは、陰部周辺の通気性を確保するために布面積が少なめです。
ハイレグにすることによって、脚の可動域を広げながら、臀部をしっかり持ち上げることでクロッチ位置を固定することができます。

縫い目の位置と構造
女子の陸上ショーツのクロッチ部分は、通常のショーツや下着と異なり、多くのモデルで、フラットシーム(平らな縫い目)または縫い目を避けた一枚布構造を採用しています。
縫い目が肌に直接当たらないように配置することで、走行中の摩擦・かゆみ・違和感を軽減し、長時間の装着でも快適性を維持します。
インナーの内蔵
陸上ショーツの多くは、中にインナーショーツ(ブリーフ型またはT字型)が縫い込まれており、クロッチ部分を含めて二重構造となっています。
このインナーは吸汗速乾性のあるメッシュなどで作られており、肌に直接当たる面で衛生性を保ち、下着の代用にもなります。汗・分泌物の吸収だけでなく、ズレを防止します。
また、股周辺が透けたり下着のラインが出たりしないように、インナーと表地の重ね合わせが工夫されています。シームレスに見える設計や裏打ち布(クロッチライナー)の使用で生地の透けを防止します。

クロッチの幅と長さ
男性用に比べて、クロッチ部分の幅がやや広めに設計されており、外陰部を確実にカバーしています(狭すぎるとずれやすい)。前から後ろまでの長さも、骨盤の傾きと臀部の丸みに合わせて前下がり・後ろ深めで、女性の外陰部の構造に合わせています。
クロッチ部分の素材
クロッチ部分は汗や熱がこもりやすいため、通気性・吸水性・速乾性の高い素材が使われます。抗菌加工やメッシュパネルを採用し、通気性と快適性を両立しています。
陰部周辺は布面積を最小限にし、吸汗速乾素材を使い、蒸れを抑える設計が一般的。メッシュパネルや通気孔を設けるモデルもあります。高性能モデルでは、抗菌防臭・pHコントロール素材も採用されており、生理前後などのデリケートな時期にも配慮しています。
クロッチ部分の汗としみ
女子用陸上ショーツのクロッチ部分に汗がたまり、それがしみになることは、特に激しい運動や長時間の競技中に起こりがちです。
この問題は、ショーツの素材、フィット感、通気性の不足に起因します。

汗としみの原因
脚を動かす頻繁な運動や走る際には、クロッチ部分(股間部分)に汗が集中しやすいです。この部分は体温が上がりやすく、汗腺が活発に働く部位でもあります。
クロッチ部分が適切なサイズや形状でないと、汗が溜まりやすく、乾きにくくなることがあります。特に締め付けが強すぎると、汗がこもりやすく、外部に排出されにくくなります。
ショーツの素材が吸汗性や速乾性に優れていない場合、汗がすぐに吸収されずに生地に残り、しみや湿気を引き起こすことがあります。特にコットン素材などは汗を吸いやすいものの、乾きが遅いため、湿気がこもりやすいです。
これにより汗が吸収されずに、しみや匂いの原因になることがあります。

会陰部の汗腺
会陰部とは、外陰部(女性器)と肛門の間の部分を指し、女性では膣と肛門の間にあたります。会陰部は脚を閉じた状態で常に内ももやお尻に挟まれた状態になっており、空気がこもりやすく、汗や体温の放散がしづらくなります。
会陰部や陰部周辺には汗腺(アポクリン腺やエクリン腺)が存在し、特にアポクリン腺は、性ホルモンに関連して発達しやすく、思春期以降に汗の分泌が活発になります。
女性は排卵期〜生理前にかけて、体温が高くなり、汗をかきやすい体質になり、生理中は特にムレやすくなります。特にデリケートゾーンは影響を受けやすく、ムレ・湿気がこもりがちになります。

対策方法
ショーツの下に速乾性のあるインナーを重ねて着る(デリケートゾーン用の吸湿ライナーやシート、パウダー、保護クリームを使う)ことで、汗を吸収し、ショーツに湿気がたまりにくくなります。これにより、汗のしみが発生しにくくなります。
また、競技や練習の合間に汗を拭き取ることで、湿気がこもるのを防ぎ、しみができるのを避けられます。長時間運動する場合は、着替えを持参して、汗をかいたらすぐに交換することが効果的です。