日本のハイレグブームは、1980年代から1990年代にかけて一世を風靡した文化的現象です。このブームはファッション、芸能、メディア、スポーツ界まで多方面に波及し、日本独自の美意識や時代背景とも密接に関係しています。

ハイレグの歴史
イスラエルのデザイナー、ギデオン・オバソンは1970年代から自身のブランドを立ち上げ、1978年(昭和53年)、脚を長く見せるハイレグカットの水着を発表し、世界的に大ヒットしました。日本国内では1980年代半ばに流行し、「ハイレグ」という言葉自体は1986年(昭和61年)頃から普及しました。

ハイレグはその大胆なVラインから男性に人気があるのはもちろん、脚が長く見えることから女性にも人気があり、現在でもレースクイーンやキャンギャルが着用することが多いです。
日本のハイレグブームを振り返る
1970年代末:ハイレグスタイルが輸入される
1970年代末〜1980年代初頭、アメリカやフランスでレオタードや競泳用水着のカットが高くなる「ハイレグスタイル」が登場。
日本でも、主に競泳水着やレオタードで採用され、特に女子体操やシンクロナイズドスイミングなどで使われました。エアロビクス、ボディビル、フィットネスの流行とともに、ハイレグレオタードが人気になりました。

1980年代:バブルとハイレグブーム
1986年〜1991年頃(昭和61年~平成3年頃)のバブル景気は、日本で株式や不動産などの資産価格が異常に上昇し、急激な価格上昇とともに、消費や投資が過熱した現象です。高級品や贅沢な消費が増え、「見せびらかす文化」が社会に広がりました。
バブル景気の象徴として、夜の街での豪遊や高級レストラン、ブランド品の購入が一般的となり、「消費」がステータスとなりました。バブル経済とハイレグブームとの関係は非常に密接です。

見せびらかす文化
ハイレグは昭和〜平成初期の「バブル文化」の象徴と言われています。脚を極端に長く、ヒップを丸く強調し、スタイルを誇示するスタイルであり、前述のように、恥じらいではなく女性の自由と解放感をアピールし、周りから注目される成功の象徴とされていました。
バブル景気の日本は「見せびらかす文化」の時代であり、女性の間で「ゴージャス」「セクシー」「大胆」が評価される価値観がありました。自己プロデュース、身体表現の手段の象徴として、女性たちがこぞってハイレグを着て露出をしていたのです。

男女雇用機会均等法
1986年(昭和61年)に改正施行された男女雇用機会均等法の影響により、働く女性が増えました。経済的には、家族のある男性上司より、独身OLの方が消費できるお金が多いという逆転現象もありました。
女性はお金があるからスポーツジムに通って身体を鍛えました。エアロビクスダンスでレオタードを着なれていたこともあってハイレグへの抵抗感はなかったと思われ、当時、ソバージュやワンレンにした女性たちはこぞってハイレグ水着を着用しました。

ハイレグで集客を図る
当時のハイレグは動きやすさより「見せるための衣装」として設計されていました。展示会やモーターショーで、ハイレグ衣装は肌の露出が多く視覚的インパクトが強いので、企業がハイレグ衣装にメーカーのロゴを入れて宣伝をしました。
ハイレグとハイヒールのセットは動きにくい格好ですが、脚長効果とスタイルは抜群で、自然と注目を集めました。
メディアでの露出
1990年代前半、他の業界(グラビア、ディスコ、テレビ)でも露出の多い衣装が爆発的に流行しました。
「オールナイトフジ」「ギルガメッシュないと」「トゥナイト2」など、深夜番組でハイレグ衣装を着た女性タレントが多数登場。ハイレグは性的魅力をアピールするアイテムとして認知され、「ハイレグの女王(High-Leg Queen)」と呼ばれるアイドルも登場しました。
レースクイーンやキャンギャルがハイレグを着ることで、車・家電・ブランド品の価値を引き上げる演出として使われました。

ハイレグ女子
ハイレグ・キャンギャル
キャンペーンガール(キャンギャル)は、自動車メーカーや関連企業のブースで製品を紹介・宣伝する女性コンパニオンです。モーターショー、オートサロン、カスタムカーイベントなどに登場し、スポーツカーやバイクの横に立ち、車両の魅力と企業イメージを引き立てます。
バブル景気の時期には集客のために、キャンギャルも「セクシーで目立つ」ことが求められていました。ハイレグ水着を身にまとったハイレグキャンギャル(High-Leg Campaign Girl)が、主にモーターショーや展示会などのイベントで登場し、圧倒的な存在感を放ちました。光沢のあるスパンデックスやラメ入りの露出度の高い「ハイレグ水着風」のコスチュームを着用しました。
イベントでは、カメラ小僧(カメコ)と呼ばれるアマチュアカメラマンたちが、ハイレグ姿のキャンギャルを囲んで写真撮影をするなど、スタイルの良さとセクシーさで男性ファンの注目を集めました。

ハイレグ・レースクイーン
レースクイーン(RQ)は、モータースポーツのサーキットなどで、車やチームのPRを担当する女性モデルです。華やかな衣装を着て、イベントの華として活躍しています。
1980〜90年代の日本では特に人気が高く、ハイレグタイプの衣装を着用して活動するレースクイーン(ハイレグレースクイーン)が多く登場していました。当時のレースクイーンブームでは、グラビアやビデオ作品などにも進出することが多く、テレビや雑誌で頻繁に見られました。このスタイルは現在でも一部のファンの間で根強い人気があります。

ハイレグの女王の例
1980年代後半〜1990年代にかけて、「ハイレグの女王」と呼ばれた芸能人・モデル・タレントたちが多く登場しました。日本のグラビア界やメディアでハイレグ水着姿で強烈な印象を残したモデル・タレントです。

武田久美子(たけだ くみこ) | 「貝殻ビキニ」写真集が伝説化。今も語り継がれる存在で、令和になっても再評価されている。ハイレググラビアの象徴。 |
岡本夏生(おかもと なつき) | レースクイーン出身「暴走コスプレ女王」バブル期の象徴ともいえるハイレグ水着を大胆に着こなし、レースクイーンやグラビアアイドルとして注目を集めました。 |
かとうれいこ | 清純派のルックスと、ハイレグ姿のギャップが人気。 テレビ・グラビア両方で活躍し、男性ファンを中心に爆発的支持。 |
細川ふみえ(ほそかわ ふみえ) | 童顔&巨乳+ハイレグという衝撃的な組み合わせ。 ハイレグを軸に、癒しとエロスの境界線を表現した人物。癒し系巨乳グラビアの先駆け。 |
杉本彩(すぎもと あや) | 圧倒的な大人の色気、堂々とした佇まい。エレガント&セクシーの代表格。気品あるハイレグスタイル。セクシー路線の象徴的存在で、ハイレグ衣装での登場も多かった。 |
飯島直子(いいじま なおこ) | 元レースクイーン・キャンギャル。ハイレグ衣装が話題となり、のちに女優としてブレイク。 |
井上晴美(いのうえ はるみ) | ハイレグ姿で写真集が話題に。女優としても実績多数。 |
川島なお美(かわしま なおみ) | 女優でありながら大胆な水着グラビアも披露。 |

ハイレグの衰退とバブル崩壊
1991年:バブル経済の崩壊
1991年にバブル経済が崩壊し、金融危機や不景気が広がりました。消費者の購買意欲は冷え込み、豪華さや派手さを誇示する時代が終わりました。さらに、バブル崩壊後の不景気により経済的に厳しくなると、女性は新商品にはなかなか飛び付かず、保守的な買い物をするようになりました。
無駄な消費や派手な生活を避けるようになり「見せびらかす文化」は衰退しました。これに伴ってハイレグファッションも衰退していきました。
1990年代後半:派手・露出=古い
バブル崩壊後は、女性の美は露出を重視するセクシーさよりも、清楚系や、ナチュラルな素材を使ったシンプルなデザインが流行し、ハイレグのような過度な露出は時代遅れとされました。
テレビや映画、グラビアなどのメディアでも、ナチュラルで知的な女性像が好まれるようになりました。グラビアアイドルも、過度な露出よりも、清楚なイメージや「可愛らしさ」を強調する傾向が強くなりました。
ハイレグや露出度の高いファッションは、次第にAVや成人向けメディアに特化したものとなり、主流から外れていきました。

スポーティ・アスレジャー
アスレジャー(Athleisure)は、アスレティック(Athletic、運動)とレジャー(Leisure、余暇)を組み合わせた造語で、運動着の機能性と普段着のおしゃれさを両立させたスタイルのことです。ジムやヨガスタジオに行くような服装を、そのまま日常着やファッションアイテムとして着るスタイルがアスレジャーです。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、スポーツウェアやアクティブなスタイルが流行し、スポーツブランドのジャージやヨガウェアが人気になり、機能的かつ健康的なイメージが重視されました。

懐かしのハイレグ
バブル崩壊後、2000年代初頭からは、ハイレグは懐かしの「バブルの象徴」「過去の遺産」として、過去を振り返る文化の一部になりました。
ハイレグは女性の社会進出と自由な活動を象徴するアイテムだったはずなのに、いつしか「性の消費」「女性蔑視」などと批判されるようになってしまいました。

最近のハイレグの再評価
最近、昭和・平成レトロブームの一環として、あえてハイレグを再現するクリエイターやモデルも登場し、コスプレ、フェティッシュ写真集、SNS投稿で「昭和ハイレグ風」「ハイレグキャンギャル風」が再評価されるようになりました。
また、コミックマーケット(コミケ)と呼ばれる同人誌即売会ではハイレグのコスプレも非常に盛んで、特に夏のイベントでハイレグ衣装を着用したコスプレイヤーが注目されます。アニメ・ゲームのキャラの再現として露出度が高いハイレグが使われ、撮影エリアで人だかりができることもあります。

- 壇蜜:昭和風セクシー演出でハイレグ的美学を再提示。
- 橋本マナミ:「国民的愛人」としてハイレグ風衣装で活躍。
- 森咲智美:「日本一エロすぎるグラビアアイドル」と呼ばれハイレグも多用。
- えなこ(コスプレイヤー):ハイレグ風レオタードなどを着こなす人気コスプレイヤー。