最近の研究ではより快適なスポーツブラの開発のため、女性が運動するときの胸(おっぱい)の揺れ方が詳細に分析されています。実は、女性の胸は上下に動くだけでなく、左右や前後にも動き、歩いたり走ったりするときには複雑な8の字(無限大)を描くことが分かっています。

おっぱいは8の字を描く(2009年)
概要
イギリス、ポーツマス大学の研究グループは、女性用スポーツブラ開発の基礎となる、3次元(3D)における乳房の変位(揺れ)の仕組みを解析した論文を2009年(平成21年)に発表しました。この研究は、乳房の3次元の動きを解明し、「おっぱいは8の字を描く」ことを示した世界初の論文です。
この研究は2009年11月に「Journal of Applied Biomechanics」誌に掲載されました。

Breast displacement in three dimensions during the walking and running gait cycles(歩行および走行の歩形サイクル中の乳房の3次元変位)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20095453/
Scurr J, White J, Hedger W. Journal of Applied Biomechanics, 2009 Nov;25, 322-329.
調査方法
平均年齢は24歳、平均体重は65.5kgの女性ボランティア15名が研究に参加しました。参加者はレクリエーション活動(週2回以上、30分以上の運動)があり、乳房の外科手術を受けておらず、過去1年以内に妊娠しておらず、胸のサイズがDカップである条件で選出されました。
参加者の女性たちはブラジャーを脱ぎ、乳房露出状態となって反射マーカー(直径12mm)を右乳首、左右の鎖骨(乳首の真上)、および左右の上前腸骨棘(ASIS)に貼り付けました(Figure 1)。そして、ランニングマシンで時速5kmの歩行と時速10kmのランニングを5回繰り返しました(Figure 2)。


空間座標系の定義
この研究では、実験室空間のグローバル座標系(x-y-z空間、Laboratory coordinate system)は、x軸をランニングマシンの進行方向(前後方向、Anterior/Posterior)、y軸を左右方向(右側がプラス、左側がマイナス、Medial/Lateral)、z軸を垂直方向(上下方向、vertical)と定義されました(Figure 3)。

その中で、左右の鎖骨の中点(Mid-clavicle)の座標を原点O(Ox’, Oy’, Oz’)とする身体のローカル座標系(u-v-n空間、Local coordinate system)を定義し、u軸は左鎖骨から原点Oを通り右鎖骨への軸(左→右)、v軸は左右ASISの中点から原点Oへの軸(下→上)としました(Figure 4)。
n軸は、u軸とv軸の空間ベクトルの外積(n=u×v)として定義されました。外積なので、n軸はu-v平面に対して直交し、u-v平面(女性の胴体)が動くとn軸も動きます(Figure 5)。


調査結果
乳房全体の揺れ運動のうち、垂直方向(上下方向)の揺れは歩行中の52%、走行中の59%(6割以下)にとどまり、残りの4割以上は左右または前後の揺れでした(Figure 6)。スポーツブラを設計する際には、「左右と前後の揺れを無視することができない」ことが分かります。

歩行と走行の周期中に、乳房の動きの4つのフェーズが確認されました(Figure 7)。
- フェーズ1:右のかかと接地~左足が浮く、右膝を伸ばす(身体が上昇)
- フェーズ2:左足を前に出して着地、左膝を曲げる(身体が下降)
- フェーズ3:左のかかと接地~右足が浮く、左膝を伸ばす(身体が上昇)
- フェーズ4:右足を前に出して着地、右膝を曲げる(身体が下降)

4つのフェーズの間に、身体の上下動に合わせて乳房も上下に2回揺れるのに対し、左右と前後には1回しか揺れないことが分かりました。そのタイミングの違いにより、乳房は左右それぞれ立体的な「8の字」を描いて動くことが判明しました(Figure 8)。
乳房の弾力と慣性の法則により、鎖骨と乳房の動きに時間差(タイムラグ)があるものの、乳房の絶対位置(グローバル座標系)と相対位置(ローカル座標系)のいずれも「8の字」を描くことが分かりました。乳房露出状態においては身体全体よりも乳房のほうが激しく動きます。

スポーツブラは揺れを抑える
イギリスのスポーツブラメーカー・ショックアブソーバー(Shock Absorber by Champion)は、ポーツマス大学と共同で運動中の乳房を研究した結果、Aカップでも最大4cm、Gカップで最大14cmも揺れることがあることが分かりました(Figure 9)。

そして、スポーツブラを付けるとその揺れを抑えることができます(Figure 10~12)。



Our Research(ShockAbsorber)
https://shockabsorber.co.uk/our-research/
下垂した乳房のほうが動く(2012年)
中国、上海交通大学・周潔(Jie Zhou)氏らの研究グループは、ジョギングにおける張りのある乳房(Pert Breast)と下垂した乳房(Ptotic Breast)の軌跡の違いを測定しました。
この研究では、乳房の外見上の動きではなく体内から見た乳首の動きを解析するため、新しい座標系が設定されました。乳房最内側点(BI)、乳房最外側点(BO)、左乳首(BL)、右乳首(BR)の4点が地面と平行な同一平面上にあるようにマーカーを貼り付け、ローカル座標系の原点Oは、BIとBOを結ぶ線上に仮想的に設定されました(Figure 13)。

その結果、下垂した乳房の動きの振幅は、張りのある乳房よりも全方向で大きく、垂直方向では、下垂した乳房の速度は張りのある乳房よりも大きいことが分かりました。つまり、皮膚や靭帯が伸びているので下垂した乳房のほうが激しく動きます(Figure 14、15)。


Three-dimensional Movements of Pert and Ptotic Breasts. Journal of Fiber Bioengineering and Informatics(張りのある乳房と下垂した乳房の3次元的な動き)
https://www.researchgate.net/publication/270068333_Three-dimensional_Movements_of_Pert_and_Ptotic_Breasts
Zhou, Jie & Yu, Winnie. (2012). . 5. 139-150. 10.3993/jfbi06201203.
ランニング、縄跳び、腿上げ(2025年最新の研究)
概要
香港理工大学ファッション・テキスタイル学部アクティブウェアデザイン研究室の大学院生チェン・ジアジェン研究員(修士、CHEN Jiazhen, Jenny、Figure 16)らの研究グループが2025年に発表した研究(2本の論文のうち1本は「nature scientific reports」に掲載)によると、ランニング、縄跳び、ハイニースキップ(腿上げ)中の乳房の動きを徹底的に調査しました。

Exploration of breast motion under different activities and intensities(異なる活動と強度下における乳房の動きの探究)
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/15589250251352192
Chen J, Keung YC, Sun Y, Yip J, Yick KL. Journal of Engineered Fibers and Fabrics. 2025;20.
Dynamic simulation of breast behaviour during different activities based on finite element modelling of multiple components of breast(乳房の複数の構成要素の有限要素モデルに基づく、さまざまな活動中の乳房の挙動の動的シミュレーション)
https://www.nature.com/articles/s41598-024-83598-8
Chen, J., Zhong, Z., Sun, Y. et al. Nature Scientific Reports 15, 3659 (2025).
調査方法
ブラジャーサイズC80の24~30歳の女性6名が実験に参加しました。ランニング、縄跳び、ハイニースキッピング(腿上げ)を各30秒間維持するように指示されました(Figure 17)。ブラジャーなし、ハイサポートのスポーツブラ、ローサポートのスポーツブラの3つの条件での調査が行われました。

マーカーの位置と座標系の設定は、マーカーの数が増えたこと以外は前述のポーツマス大学の研究とほぼ同じです(Figure 18)。

調査結果
ランニングでは、乳房は不規則な水平方向の8の字の軌道を示しました(Figure 19)。

縄跳び時の乳房軌跡は垂直方向に長い円形を描きます(Figure 20)。これは、縄跳び中の動きが主に上下方向に集中していることを示しており、その結果、垂直に細長い狭い軌跡になります。ブラジャーを着用していない状態では上下の動きが顕著でしたが、内外方向の変位は最小でした。

腿上げ時の乳房軌跡は蝶の形に似ています(Figure 21)。ブラジャーを着用していない状態では、腿上げで乳房の変位が最も大きく、上下および内外の動きが顕著でした。腿上げは最大で乳房の加速度を生み出しました。

Figure 21 : 論文掲載画像。腿上げの速度を変えたときの乳房乳首の軌道。(緑)ノーブラ(灰)ローサポート(紫)ハイサポート
この研究により、運動の種類によって胸の動きが異なることが分かりました。上下、左右、前後の3方向の揺れのパラメータによって軌跡が変わるようです。スポーツブラ開発時には様々な軌道を想定する必要があることが分かります。
補足
以下、当サイトによる補足です。
乳揺れの基本
乳揺れ(ちちゆれ、breast movement)は、タナー段階(Tanner scale、Figure 22~23)の第3段階以降の女性の乳房(おっぱい)が、その弾力と慣性の法則等の影響により体幹とは異なる動きをして揺れることをいいます。
タナー段階の第3段階の乳房:乳房が上昇し始め、乳輪の境界を越えて広がる。乳輪は広がり続けるものの周囲の乳房の輪郭と一致する。
運動時の乳揺れを通常のブラジャーで防ぐことはほぼ不可能です。乳揺れが生じると乳房の質量や運動量がそのままダメージとなり、乳房を支える組織であるクーパー靭帯への影響も大きく、痛みも激しくなります。


上下に揺れるのは上下に動く時だけ
乳房が上下だけに動くのは意図的に乳房をつかんで縦に動かした場合(Figure 24)または、縄跳びのようにその場で体幹を上下に動かした場合(Figure 25)などに限られます。それ以外の運動では通常、相当小さい乳房でない限り左右や前後にも揺れます。


乳揺れ研究の重要性
女性の乳房の揺れ方について本格的に研究されたのはポーツマス大学の研究グループによる2009年の研究以降であり、それまでは全くと言っていいほど研究されていませんでした。
最近では、幾何学や数式で乳房の3次元的な動きを分析することによって、スポーツブラのデザインに役立てています(Figure 26、27)。


専門家は、特に巨乳女子については、運動時に適切なスポーツブラを着用することを強く推奨しています。しかし、最近の研究では、女性の胸のサイズが大きくなるにつれて、特に激しい運動などの身体活動が減ることが分かっています。女性のスポーツ参加率を上げるためには、乳揺れの研究と科学的解析は絶対に不可欠なのです(Figure 28)。

参考資料(カップ別乳揺れ)
ショックアブソーバー(Shock Absorber by Champion)日本公式サイトによるカップ別の乳揺れの軌道のシミュレーションです。Credit: ShockAbsorber
AA・Aカップ


Bカップ


Cカップ


Dカップ


Eカップ


F・Gカップ


H・Iカップ


