陸上競技ではスポーツブラが胸の動きを抑える効果が知られていますが、水中のジャンプ運動にも同じような効果があるのかを実験してみたそうです。その結果は予想通り、スポーツブラを水中でつけても意味がないということでした。

概要
イギリス、ポーツマス大学(University of Portsmouth)スポーツ運動科学部のクリス・ミルズ博士(Dr Chris Mills、Figure 1)らの研究グループによると、アクアビクスなど水中でのジャンプ動作においては、スポーツブラや水着によるサポートが陸上ほど乳房の動きを抑えられないことが確認されました。

つまり、胸の大きい女性が水中でジャンプ運動をするときに、水着による胸のサポート力が足りないからといって、サポートを補完するためにその上にスポーツブラを着用しても意味がないということです。この研究は「胸のサポート力のある水着の開発」の前提として行われた実験であり、2015年7月に「Journal of Human Kinetics」誌に掲載されました。

Breast Support Garments are Ineffective at Reducing Breast Motion During an Aqua Aerobics Jumping Exercise(胸部サポートウェアは、水中エアロビクスのジャンプ運動中の胸の動きを抑えるのに効果がない)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26240648/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4519221/
Mills C, Ayres B, Scurr J. Journal of Human Kinetics 2015 Jul 10;46:49-58.
Chris Mills | University of Portsmouth
https://www.port.ac.uk/about-us/structure-and-governance/our-people/our-staff/chris-mills
研究の要旨
前提となる知識
水中運動/水中療法(アクアビクス、Water aerobics)は人気が高まっており、健康増進の点では陸上トレーニングと同等に効果的であることが知られています。特に陸上での運動中に痛みを感じる人には、水の浮力によって損傷部位への負荷と痛みが軽減されることからよく推奨されます。
大きめの胸を持つ女性(巨乳女子、Larger-Breasted Females)は、エアロビクス(aerobics)などの陸上でのフィットネス運動のジャンプ要素により、乳房が垂直方向に激しく動き、乳房痛が発生します(Figure 2)。しかし、自転車は大きい胸でも乳房痛が発生しにくく巨乳女子におすすめの運動であることが分かっています。
仮に、水中運動でも乳房痛が軽減されるのであれば、巨乳女子に水中運動/水中療法も推奨できるのではないかと考えられます。
調査方法
この研究には、UKサイズでFカップ以上(日本ではGカップ以上に相当)の胸の大きい女性6名が参加しました。参加者は、水温30.5°Cの水泳用水路と室温22°Cの研究室で、それぞれ次の3種類の「乳房サポート条件」で3回ずつ直立垂直ジャンプをしました。
特注の光ファイバーマーカーを胸骨切痕(鎖骨の凹み、sternal notch)、乳首、第10肋骨の左右の前下面に取り付けました。
- 乳房露出状態(サポート無し、bare-breasted、Figure 3)
- 水着着用(Figure 4-A)
- スポーツブラ着用(Figure 4-B)


各活動の前に、参加者は3〜5分間のウォームアップ(ランニングまたは水泳とジャンプ)と、機器と運動活動に慣れる時間が与えられました。
両方の試験中、アクアビクスのように頭上にプールスティック(tubular float、Figure 5)を持ってジャンプしました。

水中ジャンプでは、水底を調整して胸骨切痕が水面に当たるようにし、乳房が水面下にある状態でジャンプを開始しました。その後、水から飛び上がり、再び乳房が水面下にある状態で着地しました(Figure 6)。
参加者は運動によって引き起こされる乳房の痛みを0(痛みなし)から10(痛みがある)のスケールで評価しました。

調査結果
体幹の垂直可動域
乳房サポート条件間では、身体全体(体幹)の垂直可動域は水中でも陸上でも有意差はありませんでした。しかし、水中、陸上における体幹垂直可動域(Vertical Trunk Range of Motion)の平均はそれぞれ59cm、40cmであり、水着とスポーツブラでは水中ジャンプの方が統計的に有意に大きくなりました。
- 乳房露出状態、水着、スポーツブラの比較では、有意差は無い(=体幹と着衣は無関係)
- 水中と陸上の比較では、水着とスポーツブラに限り「水中>陸上」
乳房可動域、瞬間最高速度
乳房露出状態での陸上ジャンプ中、乳房可動域は上下方向(9.5cm)の方が内外方向(5.2cm)よりも広いことが分かりました。水着とスポーツブラは、乳房露出状態でのジャンプと比較して、乳房可動域の上下方向・内外方向ともに有意に減少させるのに効果的でした。
また、陸上ジャンプ中、乳房の上下方向の瞬間最高速度は「乳房露出状態>水着>スポーツブラ」の順、乳房の内外方向の瞬間最高速度は「乳房露出状態>スポーツブラ>水着」の順で、いずれも水着とスポーツブラは、乳房露出状態と比較して有意差が認められました。
しかし、水中ジャンプ中の乳房可動域、瞬間最高速度はどの条件においても有意差はありませんでした。
- 陸上では、乳房露出状態、水着、スポーツブラの比較で有意差あり
- 水中では、有意差なし(=乳房の揺れを防ぐ効果なし)
これは、スポーツブラと水着のどちらも陸上では乳房運動を軽減できるのに対して、水中では軽減できないことを示しています。水着とスポーツブラは水中でのジャンプ中の乳房サポートを強化するという点ではどちらも効果的ではないことを示唆しています。

陸上と水中の比較
水中ジャンプは陸上ジャンプに比べて乳房可動域と速度が有意に大きくなりました。ただし、乳房露出状態での上下方向・内外方向の乳房可動域は例外でした。ランニングの場合は、陸上と比較して水中での乳房の速度が低下することが知られていますが、垂直ジャンプの場合は逆の結果になりました。
陸上では乳房の運動学的な動きを軽減できたものの、水中では軽減できなかったことから、水着とスポーツブラは効果的ではなく、水着の乳房サポートウェアの改良が、アクアビクス運動中の乳房の過度の動きを軽減するのに役立つ可能性があることが示唆されました。
- 水中と陸上の比較では、水着とスポーツブラに限り「水中>陸上」

水中から空気中への移行
ジャンプ中に体幹が垂直方向に上昇するにつれて、最初は乳房は水中に沈んだまま留まりましたが、乳房が水面に近づくにつれて、乳房の乳首マーカーと胸骨切痕マーカーの相対位置が増加しました。乳房が水面を突き出ると、乳房が水面から飛び出すため、位置(および速度)が急激に変化しました。
乳房は水中に沈んでいる間は水の抵抗により動きが制限され、皮膚と乳房の組織が伸びる可能性があります。しかし、乳房が水面を突き出すと、乳房は体幹に追いつくために急速に反動するため、乳房可動域と乳房の最高速度が増加します。
乳房の移動の大部分が乳房が水から出たり入ったりするときに発生し、この移行段階では、現在の衣類がサポートできる以上の負荷が乳房にかかるようです(Figure 7)。

運動誘発性乳房痛
水中ジャンプ中の運動誘発性乳房痛は、乳房サポート条件間で有意差はありませんでしたが、陸上ジャンプ中の水着条件では乳房痛が有意に低くなりました。水中でのジャンプでは陸上でのジャンプと比較して乳房可動域と速度が有意に上昇したにもかかわらず、運動誘発性乳房痛には有意差が認められませんでした。
- 陸上では、乳房露出状態、水着、スポーツブラの比較で有意差あり(水着の時に乳房痛が少ない)
- 水中では、有意差なし(=乳房痛と着衣は無関係、Figure 8)

補足
以下、当サイトによる補足です。
ミルズ博士は現役の体操選手
この研究論文の筆頭著者であるミルズ博士は現役の器械体操選手でもあります(Figure 9)。2025年にドイツで開催されたFIG2024マスターズ体操ワールドカップ体操競技でイギリス代表として出場しました。

水中運動中の水の浮力
乳房の可動範囲は水中ジャンプの方が陸上ジャンプよりも広くなる可能性がありますが、これは、水の浮力が原因と考えられます。乳房の比重は0.9g/cm3、水の比重は1.0g/cm3なので、乳房は水より軽く浮きやすいと考えられます。しかし乳腺組織の比重が1.05g/cm3であるため、完全に浮くのではなく、身体全体(体幹)の浮き沈みや姿勢に左右されます。
陸上ジャンプ中の乳房は重力の影響を受け、ジャンプの開始時にすでに乳房が下方位置にあるため、乳房の下方移動の大きさのわずかな増加が、より大きな乳房の痛みの認識を引き起こす可能性があります(Figure 10)。

これに対して、水中の乳房は水の浮力の影響である程度上方に移動するため、ジャンプをしても運動による乳房痛を軽減していると考えられます(Figure 11)。また、水の浮力自体が自然な胸のサポートとなり、乳房の動きを抑える効果があると考えられます。

ポロリの原因
ビキニなどサポート力の弱い水着で、女性の乳房が露出してしまう現象(ポロリ、Water Polori、Figure 12~13)もこの研究成果により説明することが可能です。
乳房可動域と速度は、水着とスポーツブラで「水中>陸上」であり、陸上における乳房可動域と速度を想定して作られている水着とスポーツブラは、想定以上である水中の乳房の上下運動には対応していないのです。したがって、仮にサポート力の強いスポーツブラを着けていたとしてもポロリをしてしまいます。


