白いショートパンツを着用した女子サッカーチームはパフォーマンスが低下することが統計的に確認されました。白いショートパンツは、女子サッカー選手にとって「生理に関する不安」などの心理的ストレスに直結し、それが集中力、パフォーマンスの低下につながっている可能性があります。

概要
ノルウェー、モルデ大学(Molde University)経営社会科学部教授のスポーツ経済学者アレックス・クルーマー博士(Alex Krumer, Ph.D.、Figure 1)が、2024年(令和6年)に発表した研究論文によると、白いショーツ(白いショートパンツのユニフォームのことであり、アンダーショーツやパンティのことではない。以下同じ)を着用した女子サッカーチームは、1試合あたりの勝ち点が大幅に減少することが分かりました。
同じ調査方法で、白いショーツの男子チームまたは男子選手の得点力に影響が無かったことから、女性アスリートたちは白いショーツを着ると不安になり、パフォーマンスに悪影響を与えることが判明しました。

この研究は、ロイター通信(Reuters)がニュースとして伝え、2024年6月に「Journal of Behavioral and Experimental Economics」誌に研究論文が掲載されました。

On the cost of wearing white shorts in women’s sport(女子スポーツで白いショーツを着用することのコストについて)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214804324000521
https://www.researchgate.net/publication/374447620_On_the_cost_of_wearing_white_shorts_in_women’s_sport
Alex Krumer. Journal of Behavioral and Experimental Economics Volume 110, June 2024, 102214
Soccer-Period anxiety and white shorts linked to drop in performance – study(サッカー:生理不安と白のショーツはパフォーマンスの低下につながる)ロイター通信
https://www.reuters.com/sports/soccer/period-anxiety-white-shorts-linked-drop-performance-says-study-author-2024-04-25/
研究の要旨
研究の前提となる事実
女性は月経(生理)が普遍的・不可避であるにもかかわらず、多くの社会で議論をすること自体がいまだにタブーとみなされており、月経(生理)に関連する問題への理解不足につながっています。
最近の複数の研究により、スポーツ時の漏れに対する不安が女子選手の自信喪失につながっていることが分かっています。女子アスリートは白いショーツ(ショートパンツのユニフォーム)が不安になる、または白いショーツでプレーするのは不快な経験であると主張しています。
- 国際女子ラグビー選手に対する調査では、ほぼすべてのアスリート(93%)が生理周期関連の症状を報告した。33%が月経過多を感じており、67%がこれらの症状がパフォーマンスを低下させる(Findlay et al., 2020)。
- アマチュアの女子サッカー選手に対する調査では、生理前および生理日に最も悪影響を受ける側面として、自信と有酸素能力・持久力の不足を報告した。特定された障壁によって自信が損なわれる可能性が高い(Pinel et al., 2022)。
How the menstrual cycle and menstruation affect sporting performance: experiences and perceptions of elite female rugby players(月経周期と月経がスポーツパフォーマンスに与える影響:女子エリートラグビー選手の経験と認識)
https://bjsm.bmj.com/content/54/18/1108
Rebekka J Findlay, Eilidh H R Macrae, Ian Y Whyte, Chris Easton, Laura J Forrest. British Journal of Sports Medicine 2020;54:1108-1113.
The impact and experienced barriers menstruation present to football participation in amateur female footballers(アマチュア女子サッカー選手のサッカー参加における月経の影響と経験的障壁)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02640414.2022.2122328
Cecile J. J. Pinel,Ritan Mehta &Katrine Okholm Kryger. Journal of Sports Sciences 2022; 40(17), 1950–1963.

調査方法
女子の試合は、2003年から2023年までのFIFA女子ワールドカップ(FIFA Women’s World Cup)とUEFA欧州女子選手権(UEFA European Women’s Championship)の結果が調査されました。
合計391試合で、そのうち264試合(67.5%)でチームの一方が白のショーツでプレーし、対戦相手は白以外のショーツでした(Figure 2、Figure 3)。ただし、そのうち30試合については、チームの1つがすでにグループステージからの出場権を確保していたか、グループステージ敗退が決まっていたため「得点を取る意欲が低い(消化試合)」と定義されました。これらの試合を除外した234試合が調査対象とされました。
同様に、2002年から2022年までの男子FIFAワールドカップとUEFA欧州選手権では合計579試合が行われました。そのうち423試合(73%)で一方のチームが白いショーツを着用していました。女子の場合と同様に消化試合の50試合を除外し、373試合が調査対象とされました。
試合でのゴール(得点)ではなく、試合結果による勝ち点(90分または120分で勝利したチームは3ポイント、引き分けは1ポイント、負けたチームは0ポイント)で平均のポイントを計算しました。


調査結果
白いショーツのチームは勝ち点が低い
1試合当たりの平均勝ち点を算出したところ、白いショーツを着用したチーム(グラフの白い棒)は、1試合あたり平均1.27ポイントで、その対戦相手(白以外のショーツ着用、グラフの青い棒)は、1試合あたり平均1.57ポイントでした(Figure 4)。
つまり、白いショーツでプレーした女子チームは、対戦相手よりも1試合あたり勝ち点で平均0.3ポイント少ないことが分かりました。

ランキングに有意差は無い
FIFAの女子世界ランキングの平均値を計算したところ、白いショーツを着用したチーム(グラフの白い棒)の平均ランキングは13.63、その対戦相手(白以外のショーツ着用、グラフの青い棒)の平均ランキングは14.76でした(Figure 5)。
これにより、白のショーツを着用したチームは、白以外のショーツを着用したチームよりも平均して世界ランキングがわずかに上位であり、ほとんど有意差は無いことが示されました。つまり、白のショーツのチームのほうが実力が少し上位またはほぼ同じであるにもかかわらず、勝ち点を獲得できていないということなのです。
世界ランキングに有意な差が無いという結果は、強いチームが弱いチームよりも白のショーツを選択する頻度が多いわけでも少ないわけでもないことを示唆しています。

他の要因を排除した結果も同じ
サッカーでは一般的にホームゲームのほうが有利とされています。ホームとアウェイではユニフォームの色が異なります。
しかし、調査対象とした大会では抽選でホームかアウェイかが決定されます。したがって、ホームかアウェイか、チーム間の白のショーツの割り当てはほぼランダムに決定されるものと仮定することができます。
このようにあらゆる条件を排除して、条件が同じであると仮定した場合であっても、白のショーツでプレーするチームは、白以外のショーツでプレーする場合よりも1試合あたり平均0.32~0.37ポイント少なく、しかも統計学的に有意であることが示されました。

男子は有意差なし
同じ期間に同じ大会で行われた男子選手についても同様の分析を行いました。男子選手の場合、白いショーツの着用とパフォーマンスの間に有意な関係は見られませんでした。男子サッカーにおいて、白いショーツの着用とパフォーマンスの間に関連性が認められなかったことから、白いショーツを着用してプレーすることによる一般的なデメリットの可能性は排除されます。
この結果は、白いショーツを着用してプレーする女子サッカーチームは、白でないショーツを着用してプレーする相手チームに対して有意に少ない勝ち点しか獲得できず、それは女子だけに起こる現象であることを示唆しています。
男子サッカーでは無関係な結果が得られた一方で、女子サッカーでは有意な効果が認められたことは、女性における悪影響のメカニズムが、漏れの不安(経血漏れなのか尿失禁漏れなのかは不明)に関連しているという説を裏付けています。
補足
以下、当サイトによる補足です。
調査対象を2003年以降とした理由
この研究では、FIFA女子ワールドカップ(4年に1回開催)の2003年・第4回大会以降のデータを使用しました。
国際サッカー連盟(FIFA)は、2003年(平成15年)に初めて女子の世界ランキングを発表しました。この研究で調査対象を2003年以降としたのは、前述のように、ショーツに関係なくもともと実力があったから勝ち点が取れたのか、それとも「格下なのに」勝ち点が取れたのかを調べるために、世界ランキングを使用する必要があったためです。
1999年の第3回大会までは「FIFA女子世界選手権」の名称が用いられていましたが、2003年の第4回大会から男子と同様に「FIFA女子ワールドカップ」という名称になりました。2003年以降、FIFA女子ワールドカップとUEFA欧州女子選手権は女子サッカー界で最も成績優秀なチームが出場する最も権威のある大会となりました。

勝ち点を用いて計算した理由
今回の研究では、白いショーツのチームが白以外のチームに勝った「試合数」をカウントするため、勝ち点の平均を計算したものと思われます(基本的に勝ち点を3で割れば、勝った試合数になる)。
実際の得点(ゴール)で計算すると、特に実力差が大きい場合、点差が開くことで選手のモチベーションが低下するので、「白いショーツのせいでモチベーションが下がった」ことを示すことができなくなります。調査対象試合から消化試合を除外したのも、同じ理由です。

1人の生理が戦力ダウンにつながる
たった1人の選手が白いショーツの着用に不安を感じている場合、そのチームの平均戦力が低下し、相手チームに有利に働きます。
生理中にプレーする選手が1人から3人いる可能性が非常に高い(77.4%)ことを考えると、チームの戦力の低下はさらに大きくなる。さらに、1人の選手の不安が他のチームメイトに悪影響を及ぼす可能性もあります。

それでも白いパンツが選ばれる理由
2023年に開催されたFIFA女子ワールドカップでは、参加した32チームのうち19チームが依然として少なくとも1試合は白いショーツ(ショートパンツのユニフォーム)を着用してプレーしました(Figure 6)。
その理由として考えられるのは、サッカー界の意思決定者のほとんどが男性であり、生理周期に伴う不安に対する意識が低いことがあげられます。世界的に、女子選手の抱える問題の研究が遅れていることも要因の一つと考えられています。
本来ならば、女子選手特有の問題を解消することによって女性のスポーツ参加率が向上し、男女平等に寄与するはずですが、実際には男女平等の考え方(※)の影響により、女子選手だけを対象とした研究が著しく遅れているのが現状なのです。
※男女平等にすると性別特有のテーマが目立たなくなり、男女混合にするとユニフォームの色を男女で統一する必要があります。

色の区別の問題
実は、テレビ局や視聴者、観客がユニフォームの区別をより明確にするよう求めていることも要因の一つとして挙げられています。一方のチームのユニフォームをできるだけ白に近くし、もう一方のチームのユニフォームをできるだけ暗くすれば、簡単に実現できます。
人気スポーツであるがゆえに観客席には色覚の異常を持つ人々も少なくないのです。例えば、2018年男子のFIFAワールドカップ開幕戦でロシア(赤)とサウジアラビア(緑)が対戦した際、重度の赤緑色覚異常を持つ人にとって識別が難しかったので、ユニフォームの色についての批判があったと言われています(両チームとも国旗の色なので批判するのはおかしいと思いますが…、Figure 7)。
World Cup 2018: Why millions of fans see the football like this(2018年ワールドカップ:何百万人ものファンがサッカーをこのように見ている理由)イギリスBBCニュース
https://www.bbc.com/news/world-44535687

アンダーショーツ(パンティ)は調査対象外であること
今回の調査では、各チームの女子選手のアンダーショーツ(パンティ)の色や、生理用品の使用の有無等を確認することはできていません。そのため、白いショートパンツのユニフォームのチームが、その下に濃い色のアンダーショーツを着用して試合に臨んだかどうかは不明です。
濃い色のアンダーショーツを着用していれば、漏れの不安をある程度軽減できる可能性があります(Figure 8、Figure 9)。


